第400話 褒賞の行方

文字数 790文字

 有り難さ、嬉しさに目を潤ませていた虎松、藤丸は、
褒美という信長の言葉に一瞬、虚となった後、
示し合わせたかのように、

 「山口小弁と三人揃い、
取り立てていただけとうございます!」

 「小弁も何卒、
加えていただきとうございます!」

 「小弁……はて……」

 が、信長は直ぐに察した。
 仙千代のお下がりを着ていた美童、
あれが小弁に違いなかった。

 「如何なる者か」

 問い掛けに仙千代は、

 「旅役者なれど性根の強さ、心の善さを知り、
一座から引き取りましてございます」

 と答えた。
 信長はそれで良しとした。
 仙千代はじめ、虎松、藤丸も、
武家に育った誇りを挟持している。
 その三人が揃って厚情を示すのであるから
懐疑や異論はむしろ無粋に思われた。

 「連れてまいれ」

 控えていた銀吾、祥吉が、
指示を受けるまでもなくさっと消え、
やがて息せき切って戻ると、

 「おりません!居らぬのです!」

 「見当たりません!」

 先程、御狂いの際、
他国の客人達から引く手数多(あまた)の小弁だった。
 諸国で聞きかじりの御国言葉を通訳し、
便利に使われ、役に立ち、
愛くるしい見目も手伝ってか、
人の輪が出来るほど「人気」を博していたはずだった。

 「あちこち聞き込み致しましたが行方が知れず、
もしやと邸を覗いてみましたら、
朝に貸した木太刀に添えて、ただ、これが」

 仙千代は銀吾から渡された小さな紙を確かめ、
信長に見せた。
 何処で手に入れたか、または拾ったか、
いかにも古びた紙には炭の欠片で記したものか、
たどたどしく「こべん」と仮名文字があり、
その名前一つが木太刀を借りた礼であり、
仙千代らから受けた恩義を感謝する思いなのだと知れた。

 「生き生きしておったように見受けられたに、
遁走を企てるとは。
 仙。懐かしい小袖を着せてやる程だ、
面倒みるつもりで連れ帰ったのであろう。
 それがまた何故」

 仙千代の動揺は明らかだった。

 「探し出し、
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