第240話 越前国(11)加賀への援軍②

文字数 652文字

 秀政、仙千代の応酬は信長の一声で鎮まった。

 「久太郎、行け。
元はと言えば藤吉郎の家来の分際。
(きゅう)なれば、あ奴も拒みはすまい。
手柄をたてたい藤吉郎も久が(たす)けであれば、
横取りされる杞憂もない」

 信長は軍扇をパチリと閉じた。

 「明智が丹後で功を上げれば
口惜しいのが藤吉郎。
 かといって柴田が絡めば戦功が薄まるとして、
藤吉郎は予防線を張ったのであろう、
単独で一揆の賊を討ち取ると。
 その意気は買わねばならん」

 柴田軍を推した仙千代は、
秀政が援軍であれば妥当であると受け止めた。
 信長が言うように秀政の旧主は秀吉であり、
秀吉は特別賢い子だとして
菊千代時代の秀政を信長に差し出し、
菊千代こと秀政が事実、
あらゆる方面で才覚を見せたことから秀吉は、
またも得点をあげ、
秀政を通し信長との紐帯(ちゅうたい)を強めた。
 光秀の義妹(いもうと) 於つまきは信長の側室で、
教養、人柄、京での人脈により寵愛を受けており、
秀吉としては、
秀政に於つまきと同じ働きを期待して、
大きな成果を得たと言って良かった。
 
 当の秀政にしてみれば、
信長への忠義は
信長の秀吉に対する覚えをめでたくし、
秀吉の力になることは
信長の覇道を援護することに他ならず、
新旧主君への忠誠は
何ら矛盾するものではなく、
例えば牛一こと、太田信定は信長の御弓衆を経て、
今は丹羽長秀の禄を食みつつ、
現状、信長の祐筆として働き、
村井貞勝らを手伝って京の政務にも携わっている。
 柴田勝家の与力として働く前田利家も同様で、
信長の直臣ながら勝家の一軍として組み込まれ、
北陸に張り付く日々が続いた二年間だった。
 
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