第435話 第三部 了に寄せて(9)

文字数 864文字

 ……信忠という人①


 真からプリンス気質、誇り高い。
 と、信忠について前述しました。

 その父、信長は、
浅学の私のような者でも知っている、

 「日本史の四番バッター」

 とも評される英傑。
 華やかな戦績、激しい気性から、

 「戦国ブルドーザー」

 と心につい浮かべてしまいます。
 また今の世に繋がる余りに多くの文化的、経済的価値を創造し、
耕し、発展させ、根付かせたのも信長の功績です。

 信忠は?

 歴史ファンでない限り名も知られていないかもしれません。
 
 本能時の変といえば信長。
 
 同日、僅かな距離の二条新御所で、
信忠も討死しています。
 二条新御所は信長が、
猶子、誠仁(さねひと)親王に進呈した御屋敷です。
 変の前日から信忠は、
養母 濃姫の父 斎藤道三が僧籍にあった時期、
得度した妙覚寺に宿泊していました。
 妙覚寺は斎藤家と縁の深い寺なのです。
 この寺は信長も常宿としていて、
実は20回以上の上洛で18回、
妙覚寺に泊まっていました。
 互いに敬意を抱いていた道三と信長。
 いつも通り信長が妙覚寺に泊まっていたら、
「妙覚寺の変」となったのでしょうか。

 明智軍の襲撃により信長が絶命したことを知った信忠は、
京都所司代 村井貞勝の進言により、
妙覚寺より幾らか防備の厚い二条新御所へ移ります。
 その先は歴史が示すように信忠もまた父の死と同日、
26という若き命を散らしたのでした。

 『信長公記』に信忠の興味深い逸話が記されています。
 武田家を滅亡させた甲州征伐。
 総大将 信忠に信長は後で父が合流するまで動くな、
待っていよと度々書状や使者を送っています。
 長篠の戦いで多くの重臣を失い、
かつての栄光は何処にという武田家ながら、
勝頼は一度は領地を最大に拡げた戦上手。
 「隠居」となった信長に代わり、
織田家総大将として各地を転戦し、
勝利、経験を積んだ信忠であれ、相手は名門武田。
 信長の父心が垣間見えます。

 ところが信長が甲斐入りすると既に決着がついていました。
 信忠は尾張衆、美濃衆の精鋭を率い、
父の到着を待たず勝利を収めていたのでした。

 ②へ……

 

 



 
 

 

 

 
 





ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み