2023/05/09 02:06 第326話

文字数 969文字

南ノさんへ。

村上春樹の小説を考えることを、僕はやっぱり避けられないのだな、と思いました。高校一年生のときに学校の課外授業に出て、生徒が僕一人しかいない状況下で、好きな純文学作家と言われても知識がなかった僕が出会ったのが、文章問題のテキストとして出てきた村上春樹のエッセイ『回転木馬のデッドヒート』でした。最高に面白い、と直感した僕は、課外授業の帰り道、本屋へダッシュして、『風の歌を聴け』を買い、読むことになり、そこから〈鼠三部作〉を読むことになりました。読書体験として素晴らしかったです。高校の時に『ノルウェイの森』なども買うことになりましたが、一番忘れられないのが、『ねじまき鳥クロニクル』を巡る、当時の論壇誌の動向でした。僕の作品『文芸部は眠らせない』で、『ねじまき鳥〜』に出てくるパスタを茹でる、という冒頭をギャグとして使ったのですが、それは東浩紀解釈の村上春樹スタンスから由来します。論壇誌で河合隼雄がねじまき鳥クロニクルを「父性の復権とは?」という議論と結びつけ、それを、ミヤダイたちが「日本はそもそも父性社会ではなかった」と反論しているのを読むなどするのが、とてもエキサイティングだったのでした。まさか、河合隼雄が文化庁長官になって「SF作家が褒章をもらったら面白いだろ」ということで筒井康隆を紫綬褒章にして(真偽は謎ですが、筒井御大自身はそう思っているそうです)、それと前後して僕が筒井康隆の小説の虜になったり、東京で、父性論に反論した助教授のところにいって講義を聴くことになるなど、高校時代には予想もつかなかったです。そういう思い出が、芋づる式にどんどん繋がって出てきます。そこからずいぶん離れていき、ときが経ち、例えば村上春樹が『騎士団長殺し』を出版したときに「『ブギーポップ』の作者の上遠野浩平が新作小説を書いたのか?」と思ってしまう(『殺竜事件 a case of dragonslayer』と言ったタイトルを付ける上遠野のタイトルセンスと間違えたのです)など、純文学アンチに危うくなりそうだったところに、再び「文学とは?」みたいな問題系統を考えるきっかけになったのは、南ノさんを含め、交流のある作家さんたちのおかげです。本当にありがとうございます!!

2023/05/09 02:06 コメント(-)| 随想遊戯
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