2023/03/24 20:23 第277話

文字数 1,097文字

南ノさん


僕は炭鉱関連の資料館で働いているのですが、『スローターハウス5』の作者、カート・ヴォネガットの提唱した文学理論に、〈炭鉱のカナリア理論〉(正確には坑道のカナリア理論)というものがあり、ヴォネガットが来日したとき、大江健三郎は原子力発電反対だったので、ヴォネガットと〈炭鉱のカナリア理論〉について対談を行いました。

炭鉱のカナリアとはなにかというと、炭鉱は坑口の近くにカナリアを飼うのです。カナリアはぴよぴよ鳴いているのですが、炭鉱内にガスが充満すると、ぴたりと鳴きやんでしまうのです。この、炭鉱で飼われているカナリアこそが作家であり、世の中に警鐘を鳴らす役割を担うのである、としたんです。大江とヴォネガット対談では、その理論を敷衍して、原発の話として論じ合ったのです。

僕が住む茨城北部には東海村原発(90年代に事故を起こしています)があったり、電車で30分もかからない場所はすでにいわき市という、3.11でメルトダウンを起こした福島第一原発があるという地域です。大江の興味の矛先には、僕が住んでいる地方の問題も、かなり含まれています。

幕末で言うと、大江健三郎が書いた『万延元年のフットボール』の万延元年は、大江の地域では一揆が起こったことがナラティブストラクチャーで重要になりますが、一般的には桜田門外の変が起こった年です。自慢がてら言うと、桜田門外の変で水戸浪士に200両の軍資金を提供した桜岡源次衛門の子孫は、一昨年亡くなってしまいましたが僕の年配の知り合いで、彼も文筆家で、昔はTBSラジオなどでラジオドラマの脚本家をやっていました。



僕も大江健三郎について、考えていたところだったのです。大江の「土着性」が、そして「トポス」を考えることが、僕に関して言うと、これから特に重要な役割を果たす気がしてならないのです。大江の初期作品から受けた影響も僕にはたくさんある。

ゴシップ的なことを言うと、大江は若い頃文壇バーで暴れていたので、作家仲間からの評判はいまいちだった、という話も伝わっていますが、それでも、やっぱり大江健三郎は偉大だったと、僕は思います。



南ノさん、ありがとうございます!! いろいろ書きたいことがあるし、返信する内容もたくさんあるのですが、今回は大江の話でまとめてみました。



蛇足ですが、徳川慶喜(最後の将軍)の配下でもあった渋沢栄一は炭鉱会社を福島から茨城に渡って(社長として)たくさん持っていて、渋沢が明治30年に、石炭を運ぶために常磐線をつくりました。渋沢栄一の親戚が、マルキドサドを翻訳して裁判になったこともある文筆家の澁澤龍彦です。

2023/03/24 20:23
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