第355話 岡崎城(7)陣城

文字数 679文字

 傾聴していた家康が、
誰もが抱く疑問を口にした。

 「砦は如何なる構築と致しましょう」

 信長の背が前に動いた。

 「砦ではない。陣城を築く。
かつてこの国で、
誰も見たことのない野戦築城を為す」

 野戦築城、陣城、砦ではない……
諸将の口の端にそれら言葉が躍った。

 仙千代は竹丸を見た。
竹丸も仙千代を見ていた。
 
 「やはりな!」

 「そうだ、やはりだ」

 互いの胸中で思いは通じた。
 信長は伴天連から海の向こうの戦の話を数多聞いており、
中には非常に興味深い事例があった。
 街道整備、街路樹なども伴天連の情報を得て、
信長は着手していて、
陣城に関しても防護性を高めつつ、
戦闘力の発揮を容易にした、
野戦の為の大規模陣城の事例を知って、
宣教師から熱心に聴取していた。
 仙千代、竹丸は、信長の近侍として侍り、
信長の関心の度合いの強さを、
陣城について、感じ取っていた。

 志多羅原(したらがはら)に陣城が現れる!
攻撃、防御、両面に力を発揮する巨大な野戦城が、
武田の騎馬突撃隊を誘引し、撃滅させる!
上様が温めていた作戦が、
いよいよ具現される時が来た……

 信長の後ろ姿の向こうに居並ぶ、
織田、徳川の家臣の中には、
陣城が連想できぬものか、
少しばかり呆気に取られている将や、
目が宙を泳ぎ、
懸命に野戦城を想像している重臣が居て、
仙千代はそれがむしろ当たり前だと思った。
 仙千代、竹丸が、
何ら戦績の無い一小姓の分際ながら、
野戦城を知っていたのは、
海外での戦事情に関する伴天連の報告を、
信長の傍に付いていて知識を得ていただけであり、
それは偶々(たまたま)偶然で、
何ら優越に浸ることではないと、
仙千代は己を戒めた。

 







 

 

 

 

 
 






 





 

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