第154話 小木江城 快方(5)

文字数 717文字

 儂は殿の御小姓……
殿の側近として生きる……
殿が築かれる新たな天下をお支えし、
万見仙千代も、羽ばたいてみせる!……

 いったい誰が世を統べているのか、
いや、誰も統べてはいない、
そのように乱れた世が既に百年も続いている。
 乱世では子が飢え、母が泣き、父が死ぬ。
ようやく現れた救世主が信長だった。

 確かに殿は非情な御方……
なれど、
非情にならねば終わりがないのがこの乱世……

 また信長は、
故なく残虐行為をすることは決して、なかった。
信長が、怒りの余り、最後には、
十才の嫡男を磔にし、母親をなぶり殺しにし、
凄まじい憤怒を向けた浅井長政だったが、
長政の次男は寺へ入れることを条件に助命している。
 また、一向一揆勢にも再三再四、平和的撤退をすすめ、
和議を申し入れていた。
 受け容れないのは本願寺側の都合であって、
乱世を終わらせ、天下統一を目指す信長にとり、
治外法権に居座り、自軍を組織する顕如は、
戦国大名と何ら変わりがなかった。

 出世を果たし、一国一城の主となり、
万見家を盛り立てる!
それが為、今はただ前に進む、それのみだ……

 小姓も、既に多くが後から続いて来ている。
うち、側近として残ることが出来るのは数名に過ぎず、
また、与力、奉行、大名への道を進むとなれば、
一段と数は限定される。
しかも昨今特に、小姓の多くは重臣や名門の出で、
仙千代のように低い立場から身を起こす者は稀だった。

 いつか必ず、国持ち大名になる!
なってみせる!
武士であるなら、それが本懐!
微力ながら殿をお助けし、
平らかな世を、いつか、この目できっと……

 いつまでも童ではいられない、
いつまでも未練に縋って半端者でいるわけにはいかないと、
信忠が去った後、仙千代は決意を新たにした。



 


 
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