第17話 孤独

文字数 913文字

 信長に清三郎を小姓とすることは既に許されていた信重だった。
仙千代に似た面影があると指摘されるかと、
いくらか不安を抱いていたが、信長との謁見はあっさり終わった。

 考えてみればそれも当然で、ある瞬間には、
思わず、「仙千代……」と声を掛けたくなるほど似ているものの、
他の時には似ても似つかぬ別人で、特に、当たり前だが、
性格がまったく違っていた。
 仙千代は控え目ながら意外性や可笑しなところがあって、
信重をしょっちゅう笑わせた。
 清三郎は口が重く、現段階、会話が余り続かなかった。

 また、武家の唯一の男子として育ち、
素養全般を身に着けていた仙千代と、
いくら大名の御用甲冑商の息子とはいえ、町人の子では、
備えている知識にも大きな差があって、
こと、武具甲冑の類いの話となれば熱をこめて話はするが、
他では、

 「畏れながら、存じ上げませぬ」

 「初めて聞き及びましてございます」

 「それは初耳でございます」

 といった調子で、
信重と清三郎は三郎あたりが一緒に居ないと無言が続き、
かといって、仙千代と居た時のように、
その無言の状態さえ甘美に思われるのかといえば、
そうでもなく、ただ共に居るというだけだった。

 それぐらいのことは予想できていたはずなのに、
では何故、清三郎を小姓にしたのか。

 寂しさだった。
 父が天守に戻るのが遅い時、または戻らない夜、
麓の舘でもしや仙千代を組み敷いているのかと思うと、
嫉妬、情けなさ、悲しさで叫びたくなる。
 信重の知らない仙千代の痴態を父は知っていて、
思うように扱い、喘がせ、
もしかすれば狂わせているのかと想像すると、
一夜が長く、耐えられなかった。

 心身の寂しさを紛らわす相手、
しかも父が選んだのではない者を信重は欲した。
果たして清三郎がその任に適うかどうかは謎ではあったが、
嫌いな見目形ではなく、煩くない質は有り難かった。

 仙千代……
涙を堪えていたのか……
目が赤かった……
眼差しが揺れていた……

 謁見の間で清三郎を紹介された仙千代が哀れではあった。
しかし、信重は自分の残酷さと共に、
弱さを認めざるを得なかった。

 仙千代と同じ城で暮らし、
身も心も独りという日々に耐え続けることは、
とうの昔に限界を超えていた。

 


 



 

 
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