第94話 大評定

文字数 951文字

 河内長島は、長良川、揖斐川、木曽川が集まる河口部に位置し、
伊勢湾に対し、平坦な地形だった。
 寛元三年には、藤原道家が、
この地に流された記録が残っていることからも知れるとおり、
海と河川の境界線も定かではない輪中の村は流刑の地としても、
利用されていた。
地名の長島は、七つの(しま)からなる「七島」、或いは、
中洲特有の長い地形に因んで付けられた名だと言われている。

 先般、岐阜城で、織田軍の諸将が参集した大評定では、
信長の意を受け、宿老 柴田勝家が策戦の全容を最後、伝えた。

 「津島に陣を張った翌日、夜も明けきらぬ中、
副将の若殿には東の一江砦より侵攻し、
五明砦を目指していただく。
 続いて北からは総大将殿が小木江(こきえ)城を攻略される。
本陣はここへ置く。
 西からはこの柴田と共に佐久間隊らが大鳥居城を陥落させ、
長島を取り囲み、兵の輸送を断つ。
 長島に上陸後は篠原(しのばせ)城、松ノ木砦を落とし、
一揆勢の本拠地である願証寺を制圧、
全軍で長島城の包囲に入り、その後、兵糧攻めとする。
ここからは一切が戦況次第」

 信長の声が掛かった。

 「水軍の話もせよ」

 「はっ!伊勢の滝川一益と志摩の九鬼嘉隆が総勢二万。
それらの率いる水軍は伊勢湾より北上し、二手に分かれ、
大島砦、加路戸砦を攻略後、長島を包囲し、
兵、兵糧の輸送を海路から断ち切る策戦」

 「うむ。よく出来ておる。
蟻一匹、魚一匹の侵入も許さぬ布陣。
此度こそ、長島城を落とし、完全制圧してくれる」

 諸将全員、信長に同意を示し、

 「はは―ッ!」

 と畏れ入る。

 「この戦は根絶やしの殲滅をもって勝利とす!
一切の命乞いを許すでないぞ!良いな!」

 信長特有の五臓六腑に討ち響く大音声(だいおんじょう)が広間に響き渡った。

 「ハハ―ッ!」……

 信長の強い意志表明に逆らう者は居なかった。
 信忠は初の大将戦で、三万の兵の長となる。
殲滅戦に賛成も反対も、あろうはずがなかった。
まずは自らが諸将の足手纏いになることがないよう、
努める他ない。
未熟で経験不足の信忠ながら、戦に入れば隊の頂点に立ち、
種々選択を求められ、決定を下さねばならない。
この評定でも総大将の信長に異を唱える意思は微塵もなかった。
自軍の損害を最小限にし、
一人でも多くを無事に家路につかせる、
それが織田軍の勝利に繋がる。
まずは勝つ、思いは、ただそれのみだった。



 






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