第359話 野田原(1)竹丸の報告

文字数 673文字

 十七日、信長父子は馬を尚も東へ進め、
野田原に野営した。

 信長が勝頼との決戦地としている志多羅(したら)には、
着々と陣城が築かれていた。

 緩やかな丘陵地、志多羅には、
連吾川が南北に流れていた。
 信長は川を堀に見立て、
流れに沿って一段、二段と土塁を高く盛った上、
柵を設け、
その柵も尖った切り口を外に向けて、
馬の侵入を許さない構造にした。
 土塁のところどころは、
銃口を敵に向けられるよう狭間を設け、
尚且つ、
兵を攻撃から守る身陰盾(みいんたて)を配置した。
 原の北側は山間地、南は谷と沢になっていて、
川と並走し、志多羅を貫く陣城は長大だった。
 この地に誘き寄せ(おびきよせ)られたなら、
陣城に正面突撃するか、
背を向けて撤退する他、道はない。
 
 信長は、
陣城の完成を待つまでの時を稼ぐ為、
丹羽長秀、滝川一益、羽柴秀吉を、
長篠方面の有海原(あるみはら)に進軍させ、
敵の注意を引き付けて焦りを生じさせると同時、
消極的な動きで兵力が多くはないと見せ掛けるよう、
三将に命じた。
 家康配下の農民を使い、
織田徳川連合軍の士気が低いと偽の噂も流布させている。

 志多羅に出向いて、
陣城築城の指揮にあたっていた竹丸が、
野田原に戻り、信長に現地の報告をした。

 「空梅雨の今年とはいえ、
ここ数日の雨で、
志多羅の地はぬかるんでおります」

 「雨は諸刃の剣。
武田の誇る精鋭の騎馬隊も、
馬が泥に脚をとられれば動きが鈍り、
下馬戦を強いられるは必定。
しかし我が方も、
鉄砲が威力を発揮できぬではな」

 織田軍の鉄砲は雨の影響を減らすべく、
改良が加えられていたが、
やはり晴れていることに越したことはなかった。

 信長、竹丸の談は続いた。


 

 


 


 





 

 
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