第109話 赦免願い(2)

文字数 665文字

 葉月二日、夜、激しい風雨となった。
嵐の夜陰に乗じ、
大鳥居に籠城していた者どもが砦を抜け出し、逃亡を企てた。
織田軍はこれを追撃し、男女千人を斬り捨てた。

 それから十日後、日根野弘就(ひねのひろなり)の使者がまたやって来て、
今度こそ赦免を許されたい、この度、それが叶うなら、
篠原(しのばせ)城を開け渡し、織田軍に内通した上、
篠原の全兵は長島城に入り込み、内側から門をすべて開け、
織田軍の攻撃を助けると告げた。

 取次の秀政は断を待った。

 信忠が厳しい表情を崩さず、言った。

 「兵糧が切れたので、
降参した振りをしているだけではありませぬか」

 信長は髭を撫でた。

 「であろう。篠原には、いかほど兵が残っておる」

 信長の問い掛けに秀政は直ちに返す。

 「千人ばかりかと」

 信長が信忠に投げ掛ける。

 「副将殿、如何(いかが)為される」

 信忠の答えは既に決まっていた。

 「全員行かせれば宜しいでしょう、長島へ。
城ひとつ落とす手間がそれで省ける。
一ヵ所に集まった一揆衆は、
兵糧調整がいっそう困難になることは必定」

 「うむ!」

 信長は満足を浮かべた。

 「(ひさ)!」

 気が急く時の信長は、
秀政の通名である久太郎を短縮し、久と呼んだ。

 「はっ!」

 「織田方に通ずるという誓文を確と書かせ、
内通を認めた素振りをするのだ。
その上で長島へ千人を追い込んだら城を厳しく囲み、
一切の輸送を断って米一粒入れてはならぬ!」

 「承知致しました!」

 戦が始まって一月(ひとつき)が経っていた。
一揆軍は多くの城や砦を失い、
武器弾薬はもとより、既に兵糧も尽きかけているはずで、
そのような状況下、今回、長島城へ多くの兵、民が集まる。





 
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