第122話 花筏

文字数 664文字

 賑やかでありながら、
どこか哀愁を帯びた御囃子(おはやし)が聴こえる。
 それとも異国のいまだ知らない調べなのか。

 誰なのか、
軽やかに絡まり合いながら滑るように踊っている。

 仙千代の身は、地にも宙にもあった。

 傍らで童達が何度も腕側転をした。

 絡まっていた二人は踊り疲れたのか。
船酔いなのか。
 じっと息を潜めた。

 もっとやれと叫びがこだまする。
声が強くなって、勢いで窓が開いた。
 
 群舞する蛍が車輪となって廻っていた。

 渇きを覚えて大声で水を頼んだら、
花の香りの甘い水を若い船頭が持って来て、
御伽話を始めた。
 知らない言葉に、首を傾げる。

 微かにあったはずの痛みが白から透明になって、
船頭に手を引かれて海へ行った。

 真実は単純、答えは出ていると船頭が言った。
不思議であるばかりのはずなのに意味が知れる。

 昏く(くらく)も明るくも映る空。
波頭は銀白色だった。

 波間に花筏(はないかだ)が漂っている。
(いにしえ)の時へと誘われる。
 花は紫陽花だった。

 船頭が指すと、筏に童達が居た。
くるくると側転を繰り返す。
 真実は単純、答えは出ていると船頭が言う。

 軽やかに絡まり合いながら踊って、疲れを覚える。
船酔いなのか。
 船頭に甘い水を出されて海へ向かうと、
御伽話を語る声が小さくなって、
中空に蛍の車輪が見えてくる。
 
 紫陽花の筏が波に揺れて、もう誰も乗っていない。

 船頭の顔は見えなかった。

 蛍の回るあの先に付いていこう……
そこに何があるのか……

 痺れにも似た澄んだ痛みが深い陶酔に変わった瞬間、
船頭の手が伸び、強く突き飛ばした。

 顔は見えていないのに、
手の主は清三郎だと確かに感じた。


















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