第129話 小木江城 御寝所(3)

文字数 616文字

 それにしても、儂は何か手柄を立てたのか?
儂は背を斬られた……
誰がどう救い出し、あ奴らをどう捕縛したのか……
あ奴らはこの城で何をしようとしていたのか……

 背を中心に痛みが激しく、全身の悪寒も酷い中、
仙千代は尿意を催し、

 「小便がしたい……」

 と、言った。
 これだけを口にするでも必死だった。

 養父(ちち)が抱き起そうとすると、

 「万見様。私の方が手慣れております」

 と竹丸が仙千代の身体を横に向けると、
寝所に備え付けの檜箱を差し出した。
 その中は檜を細かく粉砕した粉や小片の炭が入っていて、
大小便を簡易的に足すことができる。

 「竹……厠へ行く」

 「この三日間もこれを使っておったのだ。
当面はこれの世話になっておけ」

 「厠へ行ける、もう……」

 「厠へ行かせたら殿に大目玉を食らう」

 「でも嫌なのだ……」

 「先ほども殿自ら、
今の儂のこの役目をなさっておいでだったのだ」

 「えっ……」

 「早う、せい、小便。漏らすぞ、早う」

 仙千代は起きる力がやはり無く、厠へ行くどころか、
身体の向きを変えるだけで精いっぱいだった。
 横向きになった途端、力尽きると、
慣れた様子で竹丸が手伝い、
仙千代はしょぼしょぼと小便をして、
局部や手指を竹丸に拭かれると、
どしっと仰向けに戻り、
その時にまたも背中の傷に強い痛みが起き、

 「あぐっ!ううっ!」

 と、抑えた悲鳴を漏らした。

 小便の手伝いを殿が為さってくださったとは……

 有り難いやら情けないやら、複雑に感情が渦巻く。






 
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