第36話 三郎

文字数 757文字

 信長の腹積もりでは、
今回の遠征は短期に終わらせるもののようで、
もちろん、戦況次第だが、桜の散る頃には京を後にするらしかった。
 仙千代は京へ信重も行くのかと思っていたが、
信重は夏の出陣に向け、遅滞なく準備や演習が行われるよう、
岐阜で用意をして待つということだった。

 ある時、三郎が腰をヘナヘナさせていたので、

 「腰痛か?」

 と声を掛けたら、何やら赤面し、モジモジするので、

 「膏薬でも張るか?持ってきてやろうか」

 と尚も案じて言うと、

 「尻が……」

 と返され、そこで三郎が信重と褥を共にしたと知った。

 まさか若殿が三郎と……
瓢箪から駒とはこのことか……
有り得ないはずの話が(うつつ)になった……

 と、仙千代は目を丸くした。
 妬けないわけではない。
だが、主君が小姓を閨房に召し寄せることは、
当たり前に行われていて、信重はむしろ遅いぐらいの方だった。

 「そのうち慣れると聞く。せいぜい大事にな」

 と冗談めかして仙千代が尻の丘を叩くと、

 「痛いっ!酷いことをするー!」

 と恨めし眼で見る。

 こちらこそ、恨めしい……
良いな、三郎も清三郎も若殿に可愛がっていただけて……

 と、内心、思った。

 「若殿は清三郎だけかと思ったら、儂にまで。
儂では清三郎にも仙千代にも似ていないのだがなあ」

 「儂と清三郎は別人じゃ!何処もかも、まったく似ておらん」

 「そうかなあ。まあ、いいや。
何にしても、儂までお手付きになるとは思いもせなんだ。
でも、悪くないなとも思った。
若殿にいっそうお仕えしようと思えた。
不思議なものじゃな……」

 食欲ばかり旺盛で、年齢のわり、幼いと見ていた三郎が、
少し大人になったという風に仙千代には映った。
そして、清三郎が日々の暮らしに加わろうとも、
信重は寂しいのだと仙千代は思った。
 
 信重の孤独を、仙千代は感じ取っていた。




 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み