第198話 清からの「宿題」(2)

文字数 699文字

 泣いた姿を見られた仙千代は、
呆然とした面持ちで竹丸を見た。

 竹丸は静かに近寄ると、

 「触って良いか?鎧を入れる箱物か?」

 と、尋ね、仙千代が頷くと、
そっと鎧櫃(よろいびつ)の桐の木肌に手を添わせ、

 「滑らかだ。
ここまでにするのには手間が掛かったな」

 と、労うような言葉を放った。

 まるで仙千代のしていたことを、
知っているかのような物言いだった。

 「これ、若殿に……」

 「うむ。(せい)の部屋にあったのを見たような」

 「侍に成ったことを喜んで、
清が若殿に感謝の思いを込めて……」

 またも仙千代は涙ぐみ、声を詰まらせた。

 「清の部屋の整理をせねばならんとなって、
小姓達を連れて先ほど行ってみたら、
これが無くなっていた。
持ち出すのは仙か三郎しか居らん。
だったら、仙千代か、と。何となく、だがな」

 「竹、竹……やっぱり寂しい……
清が居らんのが……寂しい……」

 仙千代にとり、
清三郎の死は清三郎一人を喪った悲しみであると同時、
明日の我が身であって、けして他人事ではなく、
小姓全員の行く末を表しているとも言え、
戦国の世で、
精いっぱい生きた清三郎は幸福であったと分かっていても、
その若さや、もう話せはしない寂寥を思い、
つい、涙が浮かんでしまうのだった。

 仙千代よりも幾らか背の高い竹丸に縋り、
その胸で仙千代は嗚咽した。

 竹丸は仙千代の背を小さくぽんぽんと叩き、
赤子をあやすようにした。

 仙千代は我に返って、胸から離れ、

 「すまぬ……また泣いた。
小木江の湯殿でも抱き着いて泣いた。
恥じ入るばかりだ……来年は十六になるというに」

 と、またも鼻をすすり、
それでも泣いた後の鼻水が収まらないので懐紙を出し、
大きな音を立て、思い切りかんだ。
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