第196話 戦後の「宿題」(2)

文字数 651文字

 信長が経済改革、貨幣制度改革を行う上で、
重要な役を担った代表的な要素には、
茶道具、刀剣があった。
 
 信長は単に個人的興味で、
茶道、名刀に関心を示したのではなかった。
 天下を獲る意志の明確な信長に、
遊興、嗜好のみの為の思考が入り込む隙は無かった。
 はじめ、仙千代ら、侍る者達さえ、
信長が何故、名のある茶道具を半ば意地のようになって、
収集し、時には強制的に召し上げるのか、
理解ができないでいた。
 
 例えば高価な茶器、名のある刀、
最新鋭の武器が取引される際、
以前は大量の永楽銭を要し、
荷運び車に山のように積んで運んだ挙句、
授受の際にはいちいち銅銭の良し悪しを検分せねばならず、
その労力たるや、尋常ならざるもので、
せっかちな信長にとっては、
一段と我慢ならないものだった。

 信長は覇権を拡大させてゆく中で、
各地の銅山 銀山 金山を支配下におさめ、
一定以上の高価な品の取引には必ず金銀を使用することとし、
自らが手本を見せた。
 
 その際の最も有効な品が茶道具、刀剣だった。
 信長は各地の大名、大商人から名品を召し寄せ、
拒むことを許さなかった。
 代金は、金銀を使い、金や銀が貨幣と同等、
またはそれ以上の価値を持つことを、
為政者自らが、世に知らしめる。
 
 強権的に取り上げた名物も少なくはない。
だがそれで、どのような悪評を受けようとも、
信長は意に介さなかった。
 信長の考える世界の中のこの国は、
いつまでも永楽通宝に頼ってはいられない、
他国の製造した通貨に依存することは国の基盤を揺るがすと、
信念は変わらなかった。







 
 
 
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