第407話 仏法僧の夜(6)陣城の行方①

文字数 958文字

 仙千代は豊田藤助のような者こそ、
今宵の宴に呼ばれるべきだと、
咄嗟に思ったのだった。

 身分だ、何だ、
面倒な理由など何も無い。
 ただ、呼ばれるべきは藤助だと、
思い浮かんで、
するともう考えは変わらなかった。

 と、そこへ、
石川数正の配下がやって来て、
明日の首級実検(くびじっけん)場の設営をしているが、
陣城に使った材木を転用しても良いかと尋ねた。

 「いかにも、どうぞ、
不自由なくお使いください」

 仙千代は許しを与えた。

 使者は礼を述べつつ、居残っている。

 一方、藤助は、
仙千代に言われて居るのだが、
家康の腹心 数正の家来が来たというだけで、
黙礼の後、
三郎の後ろに身を小さくして立っている。
 
 「まだ何か?」

 言い辛そうな使いに仙千代は控え目に微笑んだ。

 「万見様、
あくまでお尋ねではございまするが、
上様はあの膨大な美濃からの材木を、
この後、
如何なさるおつもりであられましょうか」

 美濃の美林から切り出した材木は、
とてつもない量であるばかりでなく、
東濃(ひのき)や長良杉といった良質な木材が、
多く含まれていた。
 万という材を切り出すのに、
いちいち細かな選別をしてはいられない。
 建材として、
いくらでも転用が効くということは、
財産的価値があるということであり、
矢弾で破損したり血肉で汚れたものでさえ、
農地の小屋掛け、畜舎、
果ては焚付まで何でも利用ができる。

 かといって、
天下の儀を制する上様が、
戦で使い古しの材木を、
三河という他国の領土を横断し、
兵に運ばせ、尾張へ持ち帰るなど、
不細工にも程がある……

 仙千代が知っている信長ならば、
ケチ臭い真似はまず、しない。

 「こちらで断じることは適いませぬ故、
上様にお考えを訊いてまいります」

 もしや次に使う腹積もりがあるのなら、
この後、
百姓達に乱取りされぬよう、
保全しなければならない。
 だが、そんな話は聞いていない。
そんな話があるのなら、
信長は仙千代や竹丸に必ず指示をした。

 「恐れながら既に一部、
農民達が引っこ抜き始めておりまして」

 相手は困惑と共に、
叶うなら、
材木を置いていってもらえまいかという期待も、
いくらか垣間見られた。

 「相分かり申した、直ちに。
本陣建屋前にてお待ちください」

 身の置き所が無さそうに、
三郎の背から半身だけ見せている豊田藤助に、
仙千代は、

 「どうぞ御一緒に」

 とニコッと笑った。


 
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