第123話 二間城 豪雨

文字数 753文字

 強雨は止む気配がなかった。
二間城の信忠は、ここはかつて、
日の本一の水溢(すいいつ)の地であったと実感していた。

 二間の城は平城であるとはいえ、
築かれた石垣が極めて高く、辺りを睥睨するようになっている。
城は攻撃に対する備えと共に、
水害からの防備も強く意識されて造られていた。

 あと半刻もこの調子で降り続くなら、
揖斐、長良、木曽という並走して流れる三本の川が、
周りの支流まで集め、巨大なひとつの水の塊となり、
堤を超え、尾張の地を呑み込んでしまいそうだった。

 既にいくつかの中州は水没し、河川敷も分断されかけている。

 雨でなければ、陽が沈むまでにまだ間があるが、
豪雨は空を暗くして、辺りは墨絵のように彩を失っていた。

 三郎達が遅い……

 と、信忠は思い、

 まだ小木江を出立していないのなら良いが、
もう出ているのなら雨を凌ぐ場所もない……

 と、両城の間の道程を脳裏に描いた。

 いっこうに雨足が弱まる気配がないことに信忠が、
使いに出した三郎達一行を案じていると、

 「副将様!」

 「若殿!」

 という声がして、目を遣ると、
信忠が日中の居室としている城主の間の前庭へ、
断りらしい断りもなく、ずぶ濡れの集団が姿を見せた。

 三郎を含む、信忠の親衛達で、
小姓出身の精鋭である馬廻りも五、六人居る。

 全員が明らかに戦闘行為を終えた後の姿だと知れる。
ずっぽり、ただ濡れているだけでなく、
幾人かは負傷して血を流している。

 「何ごとか!」

 信忠が声を張り上げた。

 転がるように雪崩れ込んできた三郎が、

 「奇襲に遭いました!」

 と雨に負けない大声を放った。

 三郎の頬と顎の小さくはない斬られ傷は鮮血を帯びている。

 すぐに一人足りないことに気付く。

 「清三郎!」

 返事がない。

 三郎は大きく一度息を吸い、

 「絶命!……」

 と声を震わせた。

 

 

 

 

 

 

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み