第7話 帰城の宴(1)

文字数 653文字

 信長と信重が美濃へ引き上げたとはいえ、
浅井、朝倉攻めは、
木下藤吉郎以下、諸将が、城や砦を守り続けている。

 その為、帰還の祝いは小規模だった。
宴は共に帰った大将達やその家来、
留守を守った家臣達といった顔触れで始まった。

 竹丸や三郎など、従軍組の小姓達は、
信長の計らいで今夜は任から解放され、
宴の場には居なかった。

 麓の公居館の広間の上段の間に信長、信重が座し、
小姓達が料理を供して、酒も注いでまわる。
 今夜は大将達の小姓も信長がもてなすと言い、
客人扱いだったので、
岐阜の城の留守居組だった小姓達は、
いくら内輪の宴とはいえ、大忙しだった。

 出仕して、まだ半年少々だというのに、
仙千代は他の先輩小姓と比べても遜色のない働きを見せた。
 常は祐筆の手伝いなど、執務もかじっているのに、
このような饗応の場での手順や振舞も、
もうしっかり覚え込んでいて、動きに無駄がなく、
特別気にせずにいても、否が応にも存在が浮き出て、
その上、元来の性格が慎ましい故か、
嫌味がなく、悪目立ちすることがまったくなかった。
 
 手隙になれば、部屋の外へ出て、
中の様子は気にしつつ、姿を消している。
 頃合いを見て、酒を運んだり、料理を取り替えたり、
広間に出入りして、宴席が首尾よく運ばれるよう立ち働き、
酒の進んだ重臣が冗談を言えば笑窪(えくぼ)が浮かんで、
たちまち本来の素朴な雰囲気になる。
大人ぶって気の利いたことを言ったり、
わざとらしい大袈裟な表情を作らずとも、
少し笑っただけで笑窪が人懐っこさを醸すのだから、
得な性分をしているとしか言いようがない。







 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み