第224話 信玄の幻影(3)

文字数 677文字

 勝頼の父、信玄は、戦上手の英傑だった。
勝頼もまた、その血を受け継いでいる。
 
 武田軍は、
数多の名将を擁し、手強いことで名高い。
 それら名将達が勝頼を支え、
勝頼もまた、
家督を巡る御家騒動により後継指名されただけに、
信玄の遺産とも言うべき勇猛慧眼の武将達に
存在を見せ付けなければならず、
西への侵攻、つまり徳川領への攻撃を、
緩めるわけにはいかないという内情が、
放った間諜により織田側に齎されて(もたらされて)いた。

 長年、織田家と武田家は互いに牽制し合い、
信忠と勝頼の異母妹(いもうと) 松姫は、
ついには一度も見舞えないまま長く婚約関係にあり、
松姫は、
武田家内で織田家御嫡男御正室御預かりという身分で、
四年を過ごした。
 また、縁戚関係を一段と複雑にしているのは、
勝頼の病没したばかりの正室が、
信長の養女 龍勝院であって、
二人の子 武王丸が信玄の遺言により、
次代の武田家当主として決定していることだった。

 いつもながらのことで、
仙千代は頭の中に織田家の系図を描いてみる。

 若くして病に没された龍勝院様は、
殿の御血筋でないとはいえ、名目上織田家の姫君……
武田家の若君は我が殿の義理の甥御様……
今では武田の重臣の(つま)と成られた岩村殿は、
織田の大殿の御妹様にして殿の叔母上……

 今後も武田家との交戦が、
徳川家だけの力で済まされるとは思われず、
血で血を洗う戦国の世の縮図のような戦いを、
浅井長政と繰り広げた信長が、
次には相手を変えて、
武田勝頼と一戦を交える可能性が高まっていると思うと、
大名同士の縁戚関係を脳裏に浮かべ、
ただ感傷に浸っていることは許されないと、
仙千代は身が引き締まった。

 


 

 

 








 

 
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