第3話 *重ねられた夜(2)*

文字数 1,287文字

 褥以外では小姓達が信長の手足となって、
目の前の物であっても先に察して手渡すが、
閨房での作法に未だ不慣れな仙千代に気を利かせ、
褥では信長が、
精で塗れた仙千代の手指を丁寧に拭き取ってくれる。

 「申し訳ございませぬ……」

 未だボウっとして信長にされるがままになっていた。

 「詫びることはない。仙の成長を見られた。
大いなる喜びじゃ」

 「お恥ずかしゅうございます……」

 ふと見遣ると、信長の一物は巨大なまま、
まったく萎えていなかった。

 仙千代の目線に気付いた信長が、

 「どうにかしてくれるのか?」

 と、茶目を交えて言った。

 「どのように致しますれば……」

 「どうすれば悦ぶと思う」

 信長は純白の絹の単衣を着たまま褥に胡坐座(あぐらざ)で居て、
ふっと笑みを零した。
 その眼の表情は子供のような素朴さを湛え、
同時に逆らわせはしない強く純な光があった。

 求められていることを察し、
仙千代は意を決して信長の前に座し、顔を股間に埋めた。
 目の前にあるそれは、
今まで仙千代が見たどの陽物よりも巨きく逞しく、
勇気を振り絞り、先端に唇にそっと触れさせただけで、
いっそう膨らみと硬さを増した。
 信長が非常な快感に酔い痴れつつあることが分かる。
身を折り曲げている仙千代の頭の後ろに乱れた息が吹きかかり、

 「仙千代。愛しい。堪らぬ……」

 という掠れ(かすれ)掠れの声がする。

 立場も何も絶対的な違いがあって、
足元にも及ばない仙千代だったが、
稚拙で無器用な口淫にこれほど悦びを表して、
喘ぎ、呻き、反応を返す信長は、
殿でも権力者でもなく、単に一人の男だった。

 そう思った後は、
頬張ろうとしても頬張り切れない一物を口いっぱいに含み、
拙いながらも懸命に愛した。
 精を放つ寸前、
息遣いも荒い信長が仙千代の顏を陽物から外そうとしたが、
仙千代は嫌がって、口中で受け止め、嚥下した。

 仙千代に驚愕したものか、信長は、
頻りに(しきりに)恋慕の情の想いを告げて、
狂ったように抱き締めて名を呼び、
息ができないほどに口を吸い続けた。
 いつもの信長らしくなく、どちらかといえば乱暴とさえ言え、
ぐいぐい顔も口も舌も押し付けられて髭が痛かった。
 たださえ困憊の果ての仙千代は、
数え切れないほどの口づけや、
数多の愛の言葉に酩酊を覚えたようになり、
後のことは記憶になかった。

 ……

 若殿、初陣、おめでとうございます……
せめて、その一言をお伝えしたかった……
でも、行ってしまわれた……

 出陣式の後、
視界を曇らせながらも儀式の片付けをしている仙千代に、
奥向きの務めを担っている信長の近習の声が飛んだ。

 「仙千代殿、天守へ上がって若君達のお世話をしなされ」

 信長の男子の子供はこの城にまだ何人も居た。
留守居の小姓達で若君達の世話をすることになっている。
 今の仙千代は、
名に「殿」と敬称が付けられることが間々あった。
 信長の寵愛が深い竹丸も、同様だった。

 涙を拭いて、仙千代は直ぐに笑顔となった。

 「ただ今!参ります!」

 留守居でも、織田家の為に尽くすということでは、
北近江組と変わらないはずだった。
 腕でぐいっと涙を拭いて、鼻水も大きく啜り、
仙千代は気持ちを切り替えた。

 

 





 


 
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