第311話 爛漫の岐阜城(8)

文字数 886文字

 秀政の話は続いた。

 「三年前、儂は上様に呼ばれ、
彦七郎、彦八郎を預けられた。
一人前の馬廻りとして育て上げよと。
その際、こうも仰せになられた。
仙千代には家来が居らぬ、
だが運の良いことに、
市江兄弟という優れた若武者が共に居る、
あの者達は儂からの預かりとして、
特別に鍛え上げよ、
市江兄弟は仙千代と生涯を一にする仲、
けして手綱を緩めず育てよと。
儂は二人には厳しく接した。
若い衆、皆でやった失敗も必ず二人を叱った。
さぞ嫌われておるのであろうな」

 彦七郎達が信長の側仕えから早々に抜け、
秀政のもとで働くことになった姿を、
仙千代は眩しく見ていた。
 体躯に恵まれ、威勢が良く、武に優れた二人は、
武士の王道を行く若者だった。
 馬廻りといえば、戦では主君の警護、
武将間の連絡、戦況報告等を一手に引き受ける、
いわば戦の花だった。
 実戦に出たこともないうちから秀政に付き、
並み居る勇者に混じって薫陶を受ける二人は、
小姓衆から羨望の眼差しを受けていた。
また、先の長島一向一揆制圧戦以降、
二人は揃って活躍し、
今ではすっかり一人前だった。

 「いつぞや、無駄口を叩き、
儂の話を聞いておらんかった時には、
確か二人を殴った」

 「はっ、左様なこともございました」

 「ついでに棒で尻を数発、打たれました」

 秀政は、

 「まあ、詫びる気はないが。儂は悪くない」

 と、強調した。

 「はい」

 「仰せの通りでございます」

 「む?何やら不服そうな」

 「有り得ませぬ」

 「まさか。ございませぬ。
あってはならぬことでございます」

 「ううむ、すっきりせぬが。
まったくスッキリせぬな」

 三人には師弟の思いが底流にあって、
仙千代は羨ましいような気持ちになる。

 「さ、長話はここまでだ!
そうそう、あと一つ。
有り難いことに上様が二人の為に、
若手馬廻り衆の住む棟に建増しをしてくださると仰せだ。
それもこれも、上様の期待の表れ。
万見家を盛り上げよ、隆盛に導けということだ。
市江兄弟、そして万仙は、
今後いっそう、上様にお尽くし申し上げよ。
分かったな!」

 「ははっ!」

 「ははっ!」

 「ははっ!」

 仙千代も二人に加わり、勢いのある返事をした。


 
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