第108話 赦免願い(1)

文字数 853文字

 翌朝からも織田軍の猛攻は続いた。
 
 総大将と副将は、河内長島全体を総覧し、差配した。
 信長本隊、信忠隊、柴田隊は合同で作戦を遂行し、
父子は陣から戦況を見回し、
日々刻々と報告を受けつつ、指示を放った。

 葉月を待たず、加路戸砦、大島砦は陥落した。

 諸勢は続いて大鳥居砦、及び、篠原(しのばせ)城攻めに入った。
 陽が上がりきらぬ中から攻撃は開始され、
信忠はここでも、
池田恒興と森長可(ながよし)に篠原城攻めの先鋒を命じた。
 
 恒興は堅実慎重な性格で、
一方の長可は勇猛果敢な質だった。
 篠原城にこもる日根野弘就(ひねのひろなり)は、
斎藤道三の臣下に始まり、暫く前は浅井長政に仕えていて、
長可の父、可成を討死に追い込んでいた。
 父の敵とばかり、気勢を上げるのは良いが、
やたら鼻息の荒い長可の勇み足を食い止め、
的確に支えられるのは、
近々長可の舅となる恒興が適任だった。
 長可は信忠より一つ年下の若輩ながら何せ強気で、
武将として才も魅力もあるが易々と人の話に耳を傾けはしない。
それが、恒興の娘に惚れた弱みか何なのか、
許嫁(いいなずけ)の父たる恒興に対しては殊勝な態度を見せるのだった。

 この日、信忠隊の最後尾が一揆軍の奇襲にやられたが、
いち早く気付いた丹羽長秀が援軍に出て、
損害を少なく抑えた。

 やがて、大鳥居砦は陥落寸前、
篠原城も大砲を撃ち込まれ、塀も櫓もなくなって、
日に日に劣勢の色を濃くし、打つ手を失った。
 織田軍は数百艘という船団を出しており、
水上にも厳重な包囲網を敷いている。
日根野を大将とする城内の一揆衆は、
最早これまでと赦免を願い出た。

 信長の返答は、否だった。

 「間者からの報告によれば、つい先だっても、
武田勝頼に助けを求めたと言うではないか。
何を寝惚けたことを。話にならぬ」

 日根野の使者からの取次をしたのは堀秀政だった。
秀政は頷き、同調した。

 「当初からの作戦は根切。赦免は有り得ませぬ、確かに」

 「うむ。悪人どもには罪咎、悪行を償わせるのだ。
年来の鬱憤を今こそ晴らしてくれる!」

 「ははっ!」

 信長の意を受け、秀政は素早く退出していった。

 


 






 

 






 
 


 
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