第173話 河内長島平定戦 揖斐川西岸

文字数 655文字

 船上の一揆勢の多くは鉄砲、弓により深手を負うか、
命を断たれているが、
無傷の者、軽傷の者は一か八か、
次々に川へ飛び込み始めた。

 「逃すな!一人残らず討ち取るのだ!」

 銃弾、弓矢の雨あられの中、
一揆勢は枯れ枝のように痩せ細った身を、川へ投げる。
一人が投げれば、もう流れは止まらなかった。

 「逃してはならぬ!」

 信長が吼えようとも、
仲間が死にゆく姿を目の当たりにした一揆勢は散り散りに逃げ惑い、
織田軍の攻撃は(ざる)で水を掬うように、
無駄が増えるばかりとなった。

 「矢を射よ!撃ち尽くし、斬り尽くせ!」

 信長の怒号は絶叫へ転じた。

 「このままでは埒が明きませぬ!」

 秀政が次の一手を打診した。

 ここまで来て尚、往生際の悪い!
死肉を食らった身、既に地獄へ堕ちておろうに、
まだ命が惜しいというか!……

 最終解決策は既に手札として用意があった。
 火攻め。文字通り、炎による殲滅戦。

 鼠の数匹ぐらいは逃げても致し方なしと考えるでもなく、
鉄砲、弓での攻撃としたが、逃亡者が余りに多い。
逃れた者はひたすらに摂津を目指し、顕如の許へと走る。
 顕如の許で次は何をするのか、させられるのか。
鼠の群れの流れは止められなかった。

 やはり火攻めか!
焼いて焼いて、焼き果たし、
虫けら一匹居らぬようにしてくれる!……

 火攻めをもってして長島のあらゆる生命を焼殺する、
その(めい)を下すという寸前、
信長の目に、揖斐川西岸が騒がしかった。
黒雲が沸くように靄った(もやった)動きが見て取れて、
黒ずんだ塊は徐々に正体を現すと、
やがてそれらは裸に抜刀の一揆の男達だと知れた。

 
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