第11話 餅つき行事(1)

文字数 1,049文字

 元亀三年があと数日で終わろうとしていた。
信重が仙千代と儀長城で出逢い、一年が経とうとしていた。

 その間には、岐阜の城での再会、広小路堅三蔵(ひろこうじたてみつくら)の一件、
三郎の落水に端を発しての水難事件、
大蛇に足が竦んで(すくんで)動けなかった信重を仙千代が助けたこと、
津島での一夜、その直後に訪れた別れと、
少なくはない出来事があった。

 今や仙千代は誰もが知る信長の寵童で、
父が最も手塩にかけている存在であることは明らかだった。
 年若い小姓の常の務めである奥向きの様々以外にも、
出仕して間もない頃から祐筆の手伝いをさせ、
主に堀秀政に付けて、
書状の管理や副状の書き方などを学ばせている。
 まさに破格の遇され方で、
信長の仙千代への期待の大きさが推し量られ、
竹丸への寵愛が相当なものだと信重は思っていたが、
仙千代に対してはそれが尚、強かった。

 救いは、そのような仙千代を竹丸が妬むどころか、
後押しすらしているように映ることで、
信重は竹丸の仙千代への秘めた想いを再度確認すると同時、
仙千代を手助けする竹丸はひどく賢い男だとも思った。
 信長のみならず他の重臣の覚えも良い仙千代を嫉み、
敵対視することは、
損得で言えば損に決まっているが、
頭の回らない者に限って陰口を叩く。
 竹丸は逆で、仙千代を大いに助け、それにより、
主君、ひいては周囲の信頼を一段と勝ち得ている。
 怜悧で賢明な竹丸と、
何事も熱心で努力家の仙千代は良い組み合わせだった。

 信重はといえば、相変わらず小姓全員を平たく扱い、
特別な贔屓は誰にもしないが、年長の者は経験が多い分、
やはり頼りになった。
 あとは、事実は別として、
三郎が信重の「愛童」ということになってしまった手前、
共に過ごす時間は長かった。
 性的な関係はまったく無いが、
父から新たな色小姓でも付けられでもしたら堪らないということで、
時には三郎が信重の閨房に泊まることがあり、
そのような夜は寝付きの良い三郎の(いびき)を一晩中、
聞く羽目になる。

 「儂が寝るまで眠ってはならぬ」

 と、言っても毎回、
返事をするが早いか寝てしまっている三郎だった。

 しかし、おかしなもので、
信重が川で救った仙千代が救命したのが三郎だと思うと、
弟か子であるかのような感情が湧いて、
何かと欠点も目立つ三郎ながら、親しみは強く抱いた。

 縁起を担ぎ、岐阜城でも、二十八日に餅つきが行われた。
若い家臣や小姓達が張り切る日で、
皆、つきたての餅を食べることが楽しみであると同時、
目先の変わった行事は城での暮らしに変化を添えて、
それがまた皆をわくわくさせるのだった。


 

 





 
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