第428話 第二部 了に寄せて

文字数 2,177文字

 長編になってしまった第二部に、
お付き合いいただきありがとうございます。

 万見仙千代は実在した人物ながら、
信長の数多の家臣の中に、
万見という姓の者が他に居らず、
一級史料に残された、
信長の仙千代に対する重用、寵愛ぶりから、
研究者や歴史愛好家に、

 「万見という名は、
万事を見渡すという意味合いで、
信長自らが仙千代に授けた名では?」

 と時に言われるようなミステリアスな側近です。
 
 織豊(しょくほう)(織田・豊臣)時代の研究者、
和田裕弘氏のように、
享年21才説を採っておられる方がいる一方、
31才という説もあり、
信長の代表的側近でありながら、
多くの謎に包まれている早世の寵臣、
万見仙千代。

 当初、信長に仕え、
後に丹羽長秀に付けられた武将にして、
祐筆の太田牛一により記された、
信長の一代記『信長公記』には、
仙千代の働きぶりが、
とりわけ没年に(つぶさ)に記録されています。

 書かれているだけで、
これほど働き通していたのなら、
記述のないところまで含めたら、
よくまあ、
過労死しなかったというような、
八面六臂ぶり。

 話は戻り、31才という、
当時であれば壮年期まで働いた武将であるなら、
他の側近のように、
〇〇戦に△△達と出陣した等など、
書かれているべきが、
仙千代は戦闘目的で実戦に出た記述が、
一度しかありません。

 また仙千代の上席にあたり、
戦場経験豊富な堀秀政の年齢を考えると、
実戦記録が一度しかない仙千代が、
享年31というと秀政より年上ということになり、
いかにも不自然で、
仙千代21才死亡説を唱える、
和田氏の説を採りたくなります。

 万見仙千代……
ウィキペディアに登場したのも、
数年前だという話が……。

 万見氏の消息が、
歴史の表舞台から途絶えているので、
家譜(家の歴史)に先祖の人となり、
功績を書き記してくれる子孫はおらず、
新たな史料が出てくれば良いのですが、
目下のところ、望めそうにありません。
 
 主君との衆道(男色)関係も、
大変な名誉の内に入るので、
家譜は、武功も衆道関係も、
盛りに盛って「書いた者勝ち」状態。
 
 それが江戸時代に入り、
平和な世が訪れると、
武将や家臣を題材にした創作分野に広がって、
今に繋がり、
現在のイメージが形成されていると、
言っても良いでしょう。
 
 江戸以降も家が残った有名家臣の子孫同士での、
「見解の違い」による冷戦もあるらしく、
世に広まっている著名な家譜も、
創作に近いものが少なくないと言われています。
 もしくは、ほぼ、物語。

 脱線になりますが、
ヒット小説が映像化され、
そこで、
大名にまでなった武将が盗賊上がりとして描かれ、
イメージが定着してしまったことで、
子孫の方々が心を痛め、
歴史家に依頼し、
先祖の汚名を(そそ)ぐ史実を立証に至るまで、
大変な資力、労力を費やしたという話も、
あるようです。

 武功、君主の寵愛etc.
盛り盛りの御伽噺的家譜であっても、
何某か残っているなら、
時代の空気、
人物の大まかな動きは、
読み取ることができます。

 万見仙千代は生年、出自etc.
すべて霧の彼方……。

 神子田氏の一族とも言われますが、
もし本来の名が別にあって、
新たに万見と名乗るようになったのであれば、
秀吉が信長の宿老、
丹羽長秀と柴田勝家から一文字づつ戴いて、
(かばね)を「羽柴」としたように、
何らかの利益誘導が見込まれるような名を選ぶはずで、
万見とは、
いかにも不思議な名に思われてなりません。

 特権的エリートにして、
衆道・男色の総本山的存在であった、
興福寺の高僧三代が百四十年間、
延々と書き綴った第一級史料『多聞院日記』には、
信長の仙千代への寵愛ぶりが特筆されています。

 また、驚くべきは、
著名親族は皆無という、
後ろ盾の弱さ(無さ)でありながら、
仙千代は安土城に於いて、
大きな邸を賜っています。
 
 著名親族皆無、
後ろ盾無しという境遇で、
安土に於いて、
仙千代ほどではないにせよ、
高位の屋敷地を賜っている側近は、
相当若いと思われる高橋虎松、
高橋藤丸という、
これまた謎の兄弟二人のみ。
 
 このように、
名家の出ではない若者達を抜擢し、
すぐ身近に置いた信長という人には、
一段と感じ入るものがあります。

 高所に住むことに(こだわ)った信長。
 万見邸のすぐ上は、
信長の家族が住む本丸と、
信長の座所である天主。
 仙千代自身、雲の上の住人でした。

 譜代の家柄の菅屋長頼、
後に「名人」と呼ばれた程に、
多方面の才に恵まれた堀秀政、
その二人に居並ぶような仙千代の住まい……
仙千代の邸は何故こんなに大きくて、
しかも信長の御座所に近いんだろう?
 それ程の信頼を寄せられるということは、
信長にとって、
どのような存在だったのだろう……

 その疑問を出発点に「逆算」すると、
万見仙千代への信長の思いが想像されて、
このような歴史BLファンタジーになりました。

 仙千代の生涯の後半に、
物語は差し掛かってきました。

 心苦しくも、
ずいぶん長編になってしまい、
日々、目を通して下さり、
温かなコメントを頂戴し、
どれだけ嬉しく、
励みになったか知れません。
 
 心から御礼申し上げます。

 物語は第三部を迎えました。
 当初考えていた結末と、
変わってしまうかも。
 
 人物達に筆の運びを任せ、
書き進めていきたいと思っています。

 今後とも、
皆様の御都合次第で、
お付き合い願えれば幸いです。

 お読みいただき、
本当にありがとうございます。

 ……次回、追記へ続きます。




 





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