第161話 *小木江城 背*

文字数 1,038文字

 仙千代の傷を慮り、
信長自身は何も望むつもりはなく始まった一夜だった。
 日ごろ、清純朴訥な仙千代が、
汗も(よだれ)も精も綯交ぜ(ないまぜ)に喘ぎ狂う様を想像し、
昂る(たかぶる)ばかりの信長だったが、

 「左様なことは儂はせぬ。仙千代が大切じゃ。
満たされる……仙千代さえ良ければ」

 と、父性にも似た思いで伝えた。

 痛みも臆さず半身を捩った(よじった)仙千代は、
信長と目線を絡めた。
 半開きの唇の表情が清らかで、
儚くも艶めかしい。
 言葉を発せぬなら発せぬで、
突き抜けて清艶な色香が匂い立つ。

 「青くも若くもない。儂に構うな」

 あくまで傷を思い遣り、
信長は仙千代だけが快楽を貪れは良く、
それならば左程の差し障りはないと自身の肉欲を封じ、
念を押した。

 「独りでできることを、
殿の御傍に居られる一時(ひととき)にするは罰が当たります」

 「ふうむ……独りでしておったのか。
手伝ってやったに。何故呼ばぬ」

 間近で目線が絡み合う。
仙千代の口の端にのぼるなら、
そのような話もいやらしさは無く、
ひたすら愛しさが増幅させられる。

 「殿に力をお借りすれば容易なことでは済みませぬ」

 「まったく……小憎らしいことを言う。
儂の辛抱を無にしようとするのか」

 何をどのようにすれば信長の抑制が効かなくなるか、
仙千代は理屈ではなく知っている。
肌が合うと感じる理由(わけ)のひとつはそれだった。

 「せっかく呼んでいただいたのです。
殿の悦び以上の悦びは……ございませぬ……」

 眼差しが重なると、
見る間に瞳の潤みが増すように映るのは、
気のせいなのか、真なのか、
愛も欲も溢れかえって信長は、もう逆らわなかった。

 「仙千代には負ける。好きにせよ」

 「そのように致しまする。好きなように。殿を」

 仰向けになることを禁じられている仙千代は、
それ以外のあらゆる姿態をとって信長を驚かせては悦ばせ、
仙千代もまた悶え、堪能し尽くした。
 腰と尻の境の二つの笑窪(えくぼ)はさらしの邪魔を受けず、
眺めることができる。
 臀部の丘がしっかり上向いているからこその笑窪で、
何処をとっても実に魅惑的にできている。

 やがて、ひとつになる時、
初めて上に跨って受容した仙千代は、
痛みとも苦しみともつかぬ表情を見せ、

 「殿、辛うございます、壊れてしまいます」

 と口走るので、信長が腰を引き気味にし、
無理をさせまいとすると、

 「勝手なことはさせませぬ。
好きにせよと仰ったのは殿のはず」

 と信長を見下ろし、不機嫌を装った。

 「ならぬ。仙に障りが出ることは儂はせぬ。
もうここまでじゃ」

 仙千代が信長の肩を両手で押さえ、動きを封じた。







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