第192話 麒麟(1)
文字数 683文字
三郎が口火を切った。
「儂は大勢の子、孫に囲まれて、往生したいなあ」
「いや、三郎、
往生に到達するまでの道程の話を今はしておるんじゃ」
「そうは言っても仙千代、それが儂の願いなのだ。
そこに辿り着けるなら何の文句もない」
「先ほどは、言っておったではないか、
若殿の為に一命を捧げると」
三人三様、寛いだ姿勢で、月明かりの下、語っている。
「分からぬかなあ、仙。
儂が大往生を遂げるということは若殿が殿となり、
儂以上に御安泰の生涯を送られるということじゃ。
世は平らかに織田家の天下となって、
殿は大殿となり、若殿は殿となり、
若殿の若君が嫡流を継ぎ、
末広がりに織田家が繁栄する世の中じゃ。
その時にはもう、誰の血が流されることもない。
殿がお使いの花押、
つまり麒麟の世が出現するのだ」
信長の花押は唐土 の伝説上の生き物、
麒麟の「麟」の字を象った もので、
天下布武を唱えたほぼ同時期に使用され始め、
重要な書状には必ず刻印があった。
麒麟は太平の世にのみ現われる神獣で、
性質は非常に穏やかで優しく、
足元の植物を踏むことさえ恐れるほどに殺生を嫌うという。
「殿の世を若殿が継ぎ、若殿の御子が若殿を継ぎ、
麒麟の世が続くのだ」
いつしか三郎は背筋をぴんとさせていた。
「その時、儂の子もまた、
若殿の御子様方にお仕えすることが許されておったなら、
それ以上の名誉はない」
三郎に、月明かりが射し、
瞳の煌めきが仙千代と竹丸に、見て取れた。
二人は三郎に心から同調し、頷いた。
「遠大な夢だ。ワクワクする夢だ」
竹丸が共感をこめ、言った。
「竹や仙はどうなのだ?」
今度は竹丸、仙千代の番だった。
「儂は大勢の子、孫に囲まれて、往生したいなあ」
「いや、三郎、
往生に到達するまでの道程の話を今はしておるんじゃ」
「そうは言っても仙千代、それが儂の願いなのだ。
そこに辿り着けるなら何の文句もない」
「先ほどは、言っておったではないか、
若殿の為に一命を捧げると」
三人三様、寛いだ姿勢で、月明かりの下、語っている。
「分からぬかなあ、仙。
儂が大往生を遂げるということは若殿が殿となり、
儂以上に御安泰の生涯を送られるということじゃ。
世は平らかに織田家の天下となって、
殿は大殿となり、若殿は殿となり、
若殿の若君が嫡流を継ぎ、
末広がりに織田家が繁栄する世の中じゃ。
その時にはもう、誰の血が流されることもない。
殿がお使いの花押、
つまり麒麟の世が出現するのだ」
信長の花押は
麒麟の「麟」の字を
天下布武を唱えたほぼ同時期に使用され始め、
重要な書状には必ず刻印があった。
麒麟は太平の世にのみ現われる神獣で、
性質は非常に穏やかで優しく、
足元の植物を踏むことさえ恐れるほどに殺生を嫌うという。
「殿の世を若殿が継ぎ、若殿の御子が若殿を継ぎ、
麒麟の世が続くのだ」
いつしか三郎は背筋をぴんとさせていた。
「その時、儂の子もまた、
若殿の御子様方にお仕えすることが許されておったなら、
それ以上の名誉はない」
三郎に、月明かりが射し、
瞳の煌めきが仙千代と竹丸に、見て取れた。
二人は三郎に心から同調し、頷いた。
「遠大な夢だ。ワクワクする夢だ」
竹丸が共感をこめ、言った。
「竹や仙はどうなのだ?」
今度は竹丸、仙千代の番だった。