第227話 鷺山殿と日根野弘就(2)
文字数 959文字
鷺山殿は信長を確と 見据え、告げた。
「直入に申し上げます。
殿は日根野 殿の御使者を返された由。
表に口出しするは望むところではございませぬが、
こればかりは黙しておられず、
しゃしゃり出て参った次第でございます」
「うむ……」
事実、
使者が携えてきた日根野弘就 の書状を、
秀政に読み上げさせた信長は、
顔前で手を払い、
まったく興味が無いという所作をしてみせたのだった。
鷺山殿の登場に、
この後の展開を予測した信長の顔色は冴えなかった。
鷺山殿が言う通り、
表向きの人事、組織に、
嘴 を挿し入れることはない鷺山殿が今日はやって来て、
厳しい表情を崩さないのであるから、
信長は困惑の色が隠せないでいる。
「して、何をどうすれば良いと言うのだ」
「使いの者を追い掛けて、
日根野殿の謝罪と仕官を認めると仰せになられませ」
信長は相手にしなかった。
ただ、諍いにならず済むよう、
「政務に戻るとする」
と近侍達に告げ、立ち上がろうとした。
「殿。お座りになられませ。
まだ話は終わっておりませぬ」
「いや、もう済んだ。儂の心は変わらぬ」
「お変えあそばせ」
「於濃。儂の気が短いことは知っておろう。
儂を怒らせるな」
信長に三年仕えた仙千代も、
夫婦 喧嘩の場に居合わせたことは、
流石になかった。
始まるのか?
いよいよ、始まるのか?
虎と蝮 の姫御はいったいどちらが強いのか……
不謹慎だが何やらドキドキしてしまい、
内心つい、
鷺山殿の父、斎藤道三を、生前の渾名で呼称した。
信忠、秀政、竹丸も固唾を飲んでいる様子が窺い知れる。
ちらっと聞いた話では、
信長は鷺山殿との言い争いでは、
最後には矛を収める側にまわるとかで、
鷺山殿の兄、斎藤義龍が病没の後、
その室 であった近江の方が所有した壺を信長が所望し、
強引なことをしようとした際、
鷺山殿が諫めたことから信長は怒り心頭となり、
「斎藤は一族郎党、切腹せよ」と口走ったものの、
鷺山殿が母である小見の方宅へ家出をすると、
信長は姑と室 に詫びを入れる為、
親しい公卿に頼んで同伴してもらい、
鷺山殿を迎えに行ったということだった。
その逸話は、
古参の家臣の間では有名らしかったが、
信長の耳には絶対入れてはならない話なのだった。
仙千代もまた、
酒に酔って機嫌の良かった丹羽長秀が、
ぽろっとこぼした時に、竹丸と共に聞いたのだった。
「直入に申し上げます。
殿は
表に口出しするは望むところではございませぬが、
こればかりは黙しておられず、
しゃしゃり出て参った次第でございます」
「うむ……」
事実、
使者が携えてきた日根野
秀政に読み上げさせた信長は、
顔前で手を払い、
まったく興味が無いという所作をしてみせたのだった。
鷺山殿の登場に、
この後の展開を予測した信長の顔色は冴えなかった。
鷺山殿が言う通り、
表向きの人事、組織に、
厳しい表情を崩さないのであるから、
信長は困惑の色が隠せないでいる。
「して、何をどうすれば良いと言うのだ」
「使いの者を追い掛けて、
日根野殿の謝罪と仕官を認めると仰せになられませ」
信長は相手にしなかった。
ただ、諍いにならず済むよう、
「政務に戻るとする」
と近侍達に告げ、立ち上がろうとした。
「殿。お座りになられませ。
まだ話は終わっておりませぬ」
「いや、もう済んだ。儂の心は変わらぬ」
「お変えあそばせ」
「於濃。儂の気が短いことは知っておろう。
儂を怒らせるな」
信長に三年仕えた仙千代も、
流石になかった。
始まるのか?
いよいよ、始まるのか?
虎と
不謹慎だが何やらドキドキしてしまい、
内心つい、
鷺山殿の父、斎藤道三を、生前の渾名で呼称した。
信忠、秀政、竹丸も固唾を飲んでいる様子が窺い知れる。
ちらっと聞いた話では、
信長は鷺山殿との言い争いでは、
最後には矛を収める側にまわるとかで、
鷺山殿の兄、斎藤義龍が病没の後、
その
強引なことをしようとした際、
鷺山殿が諫めたことから信長は怒り心頭となり、
「斎藤は一族郎党、切腹せよ」と口走ったものの、
鷺山殿が母である小見の方宅へ家出をすると、
信長は姑と
親しい公卿に頼んで同伴してもらい、
鷺山殿を迎えに行ったということだった。
その逸話は、
古参の家臣の間では有名らしかったが、
信長の耳には絶対入れてはならない話なのだった。
仙千代もまた、
酒に酔って機嫌の良かった丹羽長秀が、
ぽろっとこぼした時に、竹丸と共に聞いたのだった。