第118話 悪戯

文字数 1,261文字

 「んん……ううん……」

 「仙千代、仙……」

 口だけにとどまらず、顏全部から首筋、
終いには襟を開け、肩まで口づけてくる信長に、

 「うう……殿、如何なさったのです」

 と腰を引き気味に、身を捩る(よじる)ようにして、
訊くでもなく訊くと、

 「分からぬか……んん、仙千代……」

 と、あちこちに唇や舌を這わせつつ、
乳首を撫でたり、摘まんだりする。

 「くすぐったい!そこは好きではありませぬ」

 「その顔が良い、その顔が……たまらぬ……」

 「変な感じで嫌なのです、おやめください」

 信長が何を燃えているのか、さっぱり不明ながら、
日ごろ、仙千代が好まないと知っている箇所を弄って(いじって)
止めようとしない。

 仙千代が知る信長は、戦地の陣では、
昼間から、このような真似はしなかった。
信長も壮健な一男子であるから、溜まれば出すということで、
夜伽の務めはあるものの、
戦場で、陽が高いうちから小姓と交渉を持つなど、
仙千代が知る限り、ただの一度も有りはしなかった。

 「殿、いけませぬ、殿らしくありませぬ」

 と仙千代が拒んで見せると余計に胸の先端を触る。

 「いっ、嫌でございますっ、そこは嫌です」

 「嫌がる仙が面白い」

 「嫌だと言っておりまする」

 「良いではないか。愛しくてたまらぬ」

 しつこく同じところを弄ぶので、

 「嫌なのじゃ、そこは!」

 と放ち、ぐいっと信長の肩を両手で押し、膝からも降りた。

 その箇所は、余りにくすぐったく、
触られる感触もどうも好きになれず、

 しかも、昼間から総大将が左様なことを……

 という呆れ半ばの怒りもあって、
とんでもない態度を取ってしまった。
 小姓が戯れを拒んだからと、
罰するような信長だとは思わない。
しかし、不興を買ったという思いは流石にあった。

 困った、また儂はやってしまった、
後先なく、やってしまった……

 と仙千代は思ったが、表面上、顔色を変えず、
信長から少し離れた位置で脱がされかけていた襟を直した。

 信長はふたたび呼び掛け、仙千代が困惑していると、

 「もう悪戯はせぬから。約束する」

 と言い、脇息を退け、そこへ仙千代を召し、座らせた。
 
 隣に座した仙千代の腰を抱き、身体を密着させてくる。

 「誰にでも苦手はある。
仙千代は胸が急所なのだな」

 最近胸の突端を触られると仙千代が嫌がることを知っていて、
敢えて触ったくせに初めて知ったような物言いをする。

 成長の過程なのか、特に近頃、乳首がぴんと張って、
布地が触れるだけでも痛痒いような、
くすぐったいような、妙な感覚で、
いつになれば収まるのかと悩ましかった。
それを信長が面白がるのが我慢できず、
つい、あのような態度を取ってしまった。

 信長がまた口を吸ってきた。
しかし性的な匂いはなかった。

 「戯れ過ぎた。
嫌われたなら儂の方が困ってしまう。赦せ」

 それは睦言に見せかけながら、
謝罪であることに間違いはなかった。

 「何ゆえ、あのような真似を」

 寛いでいても障りのない岐阜城のような場では別として、
戦に出向いた先で、
白昼からあのような真似は決してしない信長が、
どうしてという思いがあった。




 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み