第159話 小木江城 看病(2)

文字数 896文字

 確かに竹丸には負担をかけた……
しかし、あの四人の友誼の厚さは本物じゃ……
互いに切磋琢磨するのみならず、
まるで真の兄弟のように信義を尽くし、
若輩なれども立派な武士(もののふ)……

 万が一には仙千代を喪うのではないかと案じ、
信長は苦しんだ。
しかし自身に対する興味深い発見もあった。
 儀長城に向かう時、矢合(やわせ)観音で仙千代を見初め、
菩薩の子かと見紛うほどの純な美しさに息を呑んだ時、
仙千代を囲い込み、手に入れ、
己のものとする、愛欲と独占欲が信長を支配していた。
 ところが今は、
仙千代の聡さ、度胸を知るにつれ、ますます惹かれ、
将来は織田家有数の武将に育て上げ、
いつか訪れる信忠の世を支える力となることを強く願う
信長が居た。

 万が一にも美しい顔に傷を負ったらどうするのだと、
屋根から降りてくる十二才の仙千代を両腕に抱え、
甘酸っぱい汗の香りに酔った信長は、
仙千代の純な美に酔い痴れていた。
 今は違う。
 確かに仙千代は、例えば、箔濃(はくだみ)の妖しさ、
蘭奢待の深い香りを引き立てる美貌を備えているが、
芯には剛直を秘めていて、
それ故に魅力が増幅し、信長を楽しませ、酔わせる。
 そして、そんな剛を秘めた仙千代が、
褥では純真無垢な童から清艶極まる手練れにも成り、
変化(へんげ)を見せることが堪らなかった。
 仙千代は、朝から夕まで常に侍らせ、
側に置きたい存在で、飽きるということがない。
 先の、鼠が粥を食べたと謎めいたことを口走ったり、
話がどうにも噛み合わない時があることさえも、
また面白く、強い魅力になった。

 仙千代を背後からそっと抱き、身を寄せると、
湯浴みのあとの汗がふわっと香った。

 「うむむ……仙の匂い……久方ぶりじゃ。
うんん、堪らぬ……」

 深く吸い込み、仙千代の香りを堪能すると、
もう早々に牡が熱を発し、
大きさに痛みを覚えるほどになっていた。

 仙千代の腰に熱い部分を押し当てると、
仙千代も甘ったるく息を吐く。

 しかし信長は今夜、抱き合うことは考えておらず、
若い仙千代の溜まった精を、
ただ放ってやろうとしたのだった。

 信長が抱くともなく抱くばかりなので、
後ろを少し振り向き、横顔を見せて仙千代が訊く。

 「髪の匂いを嗅ぐ為に呼ばれたのですか」






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