第134話 二間城 諦念(1)

文字数 411文字

 「退け!何を立ちはだかっておる!」

 信忠が出立準備で装束を整えようとする所作を、
三郎が邪魔立てした。

 「副将、いや、若殿!ここは辛抱なさいませ!
一小姓の負傷に大将が我を失い、
狼狽えて陣を空にするなど聞いたことがございません!」

 「一小姓などと!仙千代を!」

 「分かっております、若殿の思いは分かっております、
なれど、我を失ってはならぬ御立場!
一小姓の為、陣を離れるなど、軍の士気に関わりまする!」

 「一小姓、一小姓と言うな!仙千代は、仙千代は……」

 生きる上での喜び、命なのだ……

 秘していた仙千代への思慕が露わになることも厭わず、
信忠は正気を失った振舞をした。
 
 三郎が信忠の足元で見上げ、強く眼差しを重ねた。

 「存じております、若殿の御心は。
ずいぶん前より、気付いておりました。
しかし、それとこれは別。
若殿は大将なのです、副将でいらっしゃる。
その立場をお忘れですか」

 そこへ仙千代の養父が小姓に伴われ、姿を見せた。




 
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