第204話 覇権と血脈(1)

文字数 732文字

 三ヶ月にわたる長島一向一揆制圧戦に勝利を収め、
岐阜の城に落ち着いたのも束の間、
信長には次の戦が待っていた。

 霜月初旬、摂津で伊丹親興(いたみちかおき)の反乱が起き、
大和国の平定も兼ね、
信長は信忠と共に出馬を決めた。
 仙千代、竹丸、三郎ら、
主だった小姓衆ももちろん、出征となる。
 
 たとえひとつの戦の決着がつこうとも、
乱世の行く末は未だ不明で、
織田軍も常在戦場の意気は変わらなかった。

 信長の強い引きがあり、
仙千代、竹丸は側仕えとして、
上には堀秀政ら、
選ばれた俊英集団が居るだけとなっていた。
 
 仙千代は戦支度にもすっかり慣れていた。
以前は先達を見様見真似で時間がかかっていたものが、
今では手際が増して、後進に教え、
若輩達を束ねる側になっていた。
 仙千代は、
遠くない将来、自分も一個隊を率い、
大将となって織田家の覇権を目指し、
戦場を駆け巡る日が来るのかと身を引き締めた。

 この頃、岐阜城には、
信長の異母妹(いもうと) 犬姫こと大野殿、
同じく信長の異母妹(いもうと) 市姫こと小谷殿(おだにどの)
小谷殿と亡き浅井長政の娘である茶々姫、初姫、
(ごう)姫という顔触れが新たに加わった。
 
 大野殿は、
先の長島一向一揆制圧戦で夫である佐治信方が戦死し、
信長が引き取ることとし、岐阜へ住まわせていた。
 小谷殿と三人の幼い姫は、
浅井家滅亡後、
信長の叔父である織田信次に預けられ、
尾張国守山城に住まっていたが、
信次がやはり長島一向一揆制圧戦で討死を遂げた為、
信長自らが庇護することとしたのだった。

 織田家の人々は信長や信忠はじめ、
皆が端正な面立ちをしていたが、
大野殿、小谷殿はまた特別に際立っていて、
信長の正室 鷺山殿や御側室ら、
美しい女人を見慣れているはずの仙千代や竹丸も、
初めて目通りし、
挨拶をさせていただいた折には何故か顔が赤らんだ。

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