第201話 慕情の宴(1)

文字数 750文字

 鎧櫃が仕上がった日、
三人の、いや、清三郎を含めた四人の「結晶」を前に、
大根の煮物を仙千代、竹丸、三郎という三人で食べた。
 仙千代が勤めの合間にささっと作った煮物は単なる塩味で、
けして美味いとは言えないが、
この日の主旨は三人で集まり、食し、
浄土の清三郎に鎧櫃の完成を報告することだった。

 「これを一月(ひとつき)も食べたとは。
仙の根性に恐れ入る」

 三郎が大根を頬張りながら言った。

 「味噌、塩と、味は変わっても大根は大根。
まったく食べ飽きた。
お陰で、清三郎と親しくなった」

 竹丸も大根を食べている。

 「良い奴だった。
仙を仙様と呼んでおったな、最後まで。
いくら吹っ掛けられた喧嘩とはいえ、
城内で刃傷沙汰となれば許されはしない。
助けられたと恩義を感じておったのだな、心から」

 「挑発に乗ったのは儂も同じだった。
今にして思えば儂も清も子供だった。今以上に。
あれがたった七、八ヶ月前のことかと思うと……
光陰矢の如しと言うが、
矢よりも早い、日の経つことは」

 三郎が突然、声を上げた。

 「おーい!清!聴こえておるか?
大根、食うか?そうか、幽霊では食えぬか。
儂らが清の分まで食っておいてやる。
鎧櫃も出来上がった。案外、大変じゃった。
あの世で会ったら、借りを返してもらうぞ」

 天井、壁、外に向かって三郎は叫び、
一瞬、涙を浮かべ、
次に煮大根の残りをかき込んだ。

 仙千代も湿った雰囲気を払うように放った。

 「清は大根よりもカステラが良かったらしい。
大根を食いながら、
カステラの方が良かったと愚痴っておった。
まったく贅沢育ちの奴だ」

 竹丸が、

 「よし、来年の清の命日は皆でカステラを食おう。
あの世の清を羨ましがらせてやろう」

 と言い、
仙千代、三郎も笑顔を取り戻し、頷いた。

 あとは、信忠に鎧櫃を渡すだけだった。

 




 

 



 

 

 


 

 

 

 

 

 


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