第408話 仏法僧の夜(7)陣城の行方②

文字数 802文字

 石川数正の使いと豊田藤助秀吉を外に待たせ、
仙千代が信長の御座所に入室すると、
甲冑を脱ぎ終えた直後か、
鎧直垂(よろいひたたれ)に袴という格好で、
立ったまま白湯を飲んでいた信長は、

 「何処に失せておったのだ、
とんと姿を見せず」

 と叱る真似をした。

 信長は始終、仙千代を傍に置きたがる。
 が、仙千代とて水を飲めば厠へも行き、
万事遅滞なく事が進むよう目を配り、
指示をしなくてはならず、
信長に侍ってばかりいるわけにはいかない。

 確かに先程は裏手で山椒探しをしていた。
が、信長が着替えている間には戻るつもりで出たのであり、
事実、こうして間に合っている。
 それでも信長は仙千代が不在にしたことを、
責める振りをした。

 「仙が居ぬと不便だからな、
何事につけ」

 強い言い方をした信長だったが、
ある意味、言語明瞭意味不明で、
言いたいことは、つまり、

 「儂から離れるな」

 という一言に尽きた。

 「はっ」

 二人きりではなく他の小姓も居るのに、
礼儀に則り(のっのっとり)詫びるでもなければ、
何処で何をしていたかを言うでもない仙千代を、
珍しく思ったのか、信長が、

 「如何した」

 と察し良く、返した。

 地元の一部農民により、
陣城の材木が撤去と言えば聞こえが良いが、
盗られ始めていると伝えると、

 「ううむ」

 と、これもまた珍しく信長は、
即断しなかった。

 信長は財貨を有効利用し、
時代の新たな価値創造に長けていて、
経済観念も鋭いが、
同時、不思議な感覚の持ち主で、
伴天連の宣教師達が拝謁し、
海外各地の宝物や珍品を献上しても、
要るものだけを採り、
興味の無いものや、
自身が持っても使えないと思う物は、
受け取らなかった。
 相手は貢物として披露しているのであるから、
信長は一切を貰って良いのに返すので、
宣教師達は驚いた。

 勘定に敏感な上様か、
欲得に目の眩まない上様か、
今日の上様はどちらだろう……

 仙千代自身の考えは決まっているが、
はて信長はと、
仙千代は好奇心をもって信長を見た。




 





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