第195話 戦後の「宿題」(1)

文字数 884文字

 長島一向一揆制圧戦を勝利で終えた信長は、
たまりにたまった天下の政務に取り掛かり、
その中には貨幣制度の改革があった。
 
 自国で質の良い硬貨を鋳造する技術が無い為に、
明国から永楽通宝を主とした貨幣が輸入され、
流通していたが、
当の明国では、
皇帝の方針により紙幣経済が支配的となっており、
ある時期は、
和国の為に硬貨鋳造が為されているほどだった。
 
 その為、国内では常に貨幣の供給が追い付かず、
悪銭祖銭が出回る結果となって、
市場を混乱させ、
経済を拡大させる手枷となっていた。
 
 永禄十一年、信長が、
帝の唯一の後継男子である 誠仁(さねひと)親王の元服資金を請われ、
費用負担を受諾した際、
良質な永楽通宝を集めることに信長でさえ苦労して、
中には質の劣るものも混ざっていた為、
信長は朝廷軽視と誹り(そしり)を受け、非常に憤慨をした。
 
 足利幕府が力を失い、乱世が百年以上も続き、
有力な後ろ盾を失った朝廷は貧苦に喘ぎ、
御所の屋根に穴が空き、
雨漏りしようとも直すことが出来ず、
壁に穴が空き、警備すら不能な有り様な上、
即位、譲位、元服など、
重要な儀礼をまったく行うことができないでいた。
 
 信長は、足利義昭を伴って初の上洛をした際に、
京の治安の維持回復に努め、
織田軍は一切の略奪、陵辱行為をしないと定め、
兵達に厳しく守らせ、京を平安にした上、
朝廷、公卿が食うに困らぬよう差配し、
暮らしを安定させ、
典礼行事がつつがなく行われるよう、尽力をした。
 
 ところが、親王の元服に力を寄せた信長が、
大量の貨幣の中に幾らか悪銭が混じっていたことで、
本来信長に感謝すべき公卿の一部から陰口を囁かれ、
信長の誇りは傷付き、怒りは静かに進行していた。

 新しい世に新しい貨幣制度、経済理念を打ち立てる。
信長には天下布武と同時に進行させるべき、
重い命題なのだった。

 信長の考える新しい世は商業工業を発展させ、
天候に大きく影響を受ける農業はその支えとし、
世界経済の中の一国として発展してゆくというものだった。
 既にこの時点で、全世界の鉄砲の半分が、
この国に集められている。
 貨幣経済の改革は、
天下人としての信長の大きな使命となっていた。




 
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