第150話 小木江城 快方(1)

文字数 626文字

 信忠が見舞いに訪れて以降、
仙千代は日に日に体調を戻していった。
出されたものはすべて食べ、
体力がつけば熱も下がっていった。

 信忠にきちんと食事をせよと言われれば、
効果てきめんで、
失っていた食欲を無理にでも、取り戻した。
すると、徐々に力がついてきて、
空腹を覚えるようになり、以前のように、
好き嫌いなく何でも食べることができるようになった。

 その数日前、信長から、
井戸で仙千代に襲撃を仕掛けた二人が兄弟であったこと、
直ぐには処刑せず、厳しく取り調べ、
仙千代の恨みを果たしてやったと、
責め立てた沙汰の逐一を具に(つぶさに)知らされ、
嘔吐を覚え、
耳を塞ぎたいほどの思いに囚われた仙千代だったが、
むしろ信長は意気揚々として、

 「仙千代の無念は晴らしたぞ。
我が織田軍の城井戸に毒を入れんと忍び込み、
あろうことか、
儂の臣下に斬りかかるとはもっての外じゃ。
(のこぎり)の刑では甘過ぎる。
此度は厳しく処置をした。
儂の小姓に害を加えれば、儂に斬り付けたも同じ。
あ奴ら兄弟の身体は願証寺に送り届けてやった。
今ごろ、浄土で……いや、地獄で兄弟二人、
泣いて儂に詫びているであろうよ」

 と語り、愉快そうに金平糖を一つ、口に運んだ。

 「それ、仙も食せ。甘いものは滋養がある」

 「はい。ありがたく……」

 ある意味、当然のことをした信長ではあった。
見せしめは必要だった。
そして、
仇を討ってやったという信長の機嫌の良さは、
仙千代への情愛の発露でもあって、
何も食べたくなかった仙千代だったが、
金平糖を口に含んだ。



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