第221話 竹丸の願い(2)

文字数 719文字

 その後、仙千代が、

 「竹丸、
身を乗り出すように聞いておったな、
殿が街道を整えると仰せになって」

 と水を向けると、

 「うむ!何やら血沸き肉躍る!
ムズムズして、かなわん」

 と小鼻を膨らませた。

 仙千代は竹丸に半ば気圧され、

 「殿は儂らにも、
お命じになられるだろうか、
御指名を受けた御奉行達の手伝いをせよと」

 と、投げてみた。

 「年明けのことであるから、
新年の饗応接待や政務との兼ね合い次第だ。
できるものなら、
御奉行様達に儂も付き従ってまいりたい。
ああ、是非、そうなれば良いが」

 伴天連が信長に世界情勢を語る中には、
(いにしえ)の大帝国の話があって、
その都である羅馬(ローマ)という街は、
帝国が支配するすべての領地と堅牢な道で結ばれ、
羅馬の軍隊は整備された道を使い、
物資、兵糧を円滑に運ぶことができると同時、
軍勢の移動や投入も、
迅速に行うことが可能であったということだった。
 
 他国から攻められまいと、
領土の辺境は堅く閉じ、
不便なるがままにしている大名も少なくないが、
伴天連達から海外の諸情勢、
異国の歴史を聞くにつけ、
速やかな人、物の流れは民を潤し、
国の力の源になると信長は考えていた。

 「竹は常に、
普請や作事の学びを怠らぬよう努めておる故、
御奉行衆と共に参じることを許されるやもしれぬな」

 「そうあってほしいものだ。
新たな街道が領国に築かれる姿をこの目で見、
我が身もその一助となれば、
まこと、幸いこの上なしだ」

 涼やかな容姿、賢明な物言いで、
少しばかり冷ややかに映る竹丸の前のめりな姿は、
常日頃の冷静な様とは違い熱さを帯びていて、
朋友である仙千代から見てさえ眩かった。

 竹丸、行けると良いな、
御奉行衆と共に……

 仙千代も心中で友の希望が叶うよう、願った。







 


 




 
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