第205話 覇権と血脈(2)

文字数 772文字

 大和、伊丹への出征準備で慌ただしい日々を送る中、
作業の手は休めず、仙千代が竹丸に、

 「竹丸!見たか?
美しい御方じゃなあ、小谷(おだに)殿。
後光が射しておるような。
姫君達と庭園を散策なさっておられるところに見え(まみえ)
通られる間、傅いて(かしずいて)おったら、
一瞬立ち止まり、気候の挨拶を御声掛けくださった。
何やら、ドキドキした!」

 「うむ!確かに美しい御方じゃ。
なれど、先日来、
既に岐阜へ来ておられる大野殿も麗しゅうて、
こちらもまた光輪に包まれておられるかのような」

 そこへ三郎が参戦してきた。

 「待て待て。
二人は、お艶の方様こと、
殿の叔母君であらせられる岩村殿を存じ上げぬのか?
東美濃遠山荘の岩村城主に嫁がれた艶姫様こそ、
織田家随一の美貌と謳われた姫御。
眩いほどの美しさと評判なのだ」

 仙千代は目を見開いた。

 「小谷殿、大野殿以上の美貌の主が?
まことか、それは」

 珍しく竹丸も興奮を隠さない。

 「まことであるなら、まるで天女。
小谷殿、大野殿を凌ぐ眉目秀麗ぶりとは」

 三郎は鼻の穴を膨らませた。

 「堀様がこっそり、教えてくれたのだ」

 聞けば、艶姫の夫である岩村城主、
遠山景任(とおやまかげとう)が跡継ぎが無いまま病死し、
艶姫の甥にあたる信長が五男の御坊丸を養子として送り込み、
御坊丸が岩村城へ入る際、
信長の小姓であった堀秀政は若君の随伴団の一人として同行し、
その際、女城主の任にあった艶姫こと岩村殿から、
労いの言葉をいただいたということだった。

 「堀様が仰るには、
岩村殿は、おそらく、後にも先にも、
あれほどに麗しい女人は居らぬであろうと。
どのような御方なのであろうなあ、
夢でもいい、お会いしてみたいものだなあ」

 と、三郎は、憧憬に目を輝かせた。

 毅然とし、華やかな大野殿、
愛くるしくも気高さを湛えた小谷殿、
二人の美しい姫を一段と魅惑的にした女人とは如何なるものか、
仙千代も想像を膨らませた。



 
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