第220話 竹丸の願い(1)

文字数 750文字

 大和及び摂津の反乱平定を終えた信長は、
師走まで残すところ六日という天正二年霜月の末、
岐阜へ帰国した。

 信忠ら、
岐阜城に住まう織田家の男子が一行を出迎え、
幼い若君達も全員揃っているのを認めた信長は、
満足気に表情が緩んだ。

 畿内から先に戻り、
領国の政務に当たっていた信忠が、
下馬した信長に無事の帰還を寿ぐ口上を述べると、
信長は、

 「申し付けておいたあの件は」

 と、信忠に尋ね、信忠も直ちに、

 「遅滞なく進んでおります。
資材の調達はほぼ完了し、
あとは殿が奉行を御指名になれば、
明日にでも取り掛かることが可能でございます」

 と答えた。

 信長には、
仙千代、竹丸、勝九郎といった小姓が侍り、
主の旅装を解いていた。
 他にも周囲には、
大津長昌、菅屋長頼、堀秀政ら、
馬廻り達が近侍して、
その後列には仙千代と共に岐阜へ出仕した、
彦七郎、彦八郎兄弟の姿もあった。

 信長が「あの件」と信忠に訊いた一件は、
領地内の道の整備を意味していると、
側近達は知っていて、仙千代も、

 来たる天正三年、
次なる大戦(おおいくさ)が始まるやもしれぬ、
武田家との因縁に、
いよいよ決着がつくのかどうか……
いずれにせよ、
戦準備に街道を整えておくことは欠かせない……

 と、思い描いた。

 前々から信長は、
自領の関所を撤廃していたので、
人流も物流も滞りがなくなって、
領民は大いに恩恵を受けていた。
 昨年、浅井・朝倉の征伐が成り、
畿内への道程を完全に掌握した上、
今年は、
長島一向一揆の制圧が終わったことから信長は、
かねてからの懸案だった街道整備に乗り出して、
人民の生活の利便を上げると共に、
戦時物資及び軍勢の素早い補給路を考えていた。

 信長が、信忠や側近達に、
街道を整える旨を指示した際、
仙千代も無論、深く聴き入っていたが、
隣に居た竹丸は、
瞳の輝きが只事(ただごと)ではなかった。



 
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