慈愛の黒銀~スタイン=エシェゾー~
文字数 7,710文字
「少し、気を抜いたら?」
先程採ってきたばかりの蜂蜜を嘗めながらヘリオトロープが告げると、ヴァジルから凄まじい形相で睨まれた。
「おお怖い」
リュウやヴァジルと同じ様に現在は人型だが、ヘリオトロープは火蜥蜴の一族である。蜂蜜が好物で普段は温厚であるものの、“生粋の戦闘種族”だ。
ここは、争いの起こらぬ平和な惑星だというのに。
「全く……。誰だ、スタイン様を甘やかしたのは」
「ヴァジルもだけど、この惑星の皆だよ。彼は、純真すぎる。事実を受け止めるには、あまりにも過酷。そして、彼が心を痛める事を誰しも望んでいない」
蜂蜜を綺麗に嘗め終えると、ヘリオトロープはヴァジルに静かに歩み寄った。
「…………」
言葉を失い、ヴァジルは瞳を伏せる。
幻獣星の中央に位置する首都エキプーラスには、代々幻獣星を治めてきた竜帝の、華美ではない宮殿がある。
リュウの父である現王は、妻である王妃を失くしてから臥せっていた。苦しみを表すかのように、別人のように痩せ衰え、宮殿の奥で寝たきりとなっている。
一刻も早く息子であるリュウの即位が必要だが、生憎彼には王位を継ぐという気がさらさらなく、毎日遊んでいる。
代々王家に遣えて来た教育係の末裔であるヴァジルは、放蕩息子のリュウに毎回手古摺っていた。本人を嫌いになれれば割り切って叱咤し進めていけるのだろうが、生憎リュウ自身は嫌いではないから困る。
不真面目な態度で自覚はないが、リュウの言いたいことが解らないでもない。
『何故、この平和な世界で学ぶことが多々あるのだろう』
『皆は笑顔で暮らし、諍いなど起こらないのに。何故、戦闘に必須な科目があるのだろう』
上手く言いくるめ過去からの風習だと伝えてきたが、納得できないと唇を尖らせていた。
『ならば、私の代で無しにしよう。風習は大事だが、時の流れと共に臨機応変することが、進化だろう?』
それは、ヴァジルとて重々理解している。問われるたびに、返答に困る。
唯一無二の王族が、多種多様の種族が暮らす惑星を統治してきた。歴史を学び、地形を覚え、種族を把握する……それらについても、リュウは「宮殿で学ぶより、実際に見に行ったほうが正確だ。交流も出来る」と常に不平を口にする。
確かにそうだろう、間違いではない。
だが、リュウはその先のことを知らなかった。次期王でありながら、未だに最も重要なことを知らされていない。
リュウの笑顔の前では、誰しも、“真実を”告げられなかった。先延ばしにすればするほどに、彼が思い悩むであろうことが予測できたとしても。
真実を受け入れるだけの精神が、彼には備わっていなかった。
「いっそのこと、ヴァジルが王に即位したら? お前なら誰も咎めはしないよ」
「ふざけた事を言うな、ヘリオトロープ。私は王族に仕える身だぞ」
名案だ、とばかりに嬉しそうに告げた言葉を怒涛の勢いで跳ね返される。肩を大袈裟に竦め、ヘリオトロープは床に座り込んだ。幻獣星は鉱物が非常に豊富で、宮殿の床は水晶で出来ている。彼の身に着けている金属の装飾品とぶつかって、戛然とする。
壁には、王の肖像画が飾られていた。最後尾はリュウの父親だが、すぐにリュウが並ぶだろう。
「……さて、どうする? 次の会議はスタイン様も出席させたほうが良くないか? 最早一刻の猶予も許されない」
ヴァジルは無表情で歴代の肖像画を見つめおり、こちらを見向きもしない。ヘリオトロープは口を閉ざして、瞳を瞑る。彼が問いかけに答えない場合、その思考の邪魔をしてはならぬと肝に銘じている。
「王に……助言を頼んでくる。あまりご負担をかけたくないが、私では妙案が浮かばぬ」
重々しい口を開いたヴァジルに、ヘリオトロープが「付き添うよ」と微笑した。
そこへ、何かが裂けるような悲鳴に近い声が届いた。
「ヴァジル様! 王が……王が!」
髪を振り乱し、泣き叫びながら飛び出してきた侍女を見るなり、直様ヴァジルは怒涛の勢いで奥へと消えた。
ヘリオトロープは彼とは逆に、すぐさま宮殿を飛び出した。
国王、逝去。
宮殿から伝令が飛び、数時間後には溢れかえる幻獣達が王宮に殺到することとなる。
飛び出したヘリオトロープは焦りながらもどこか冷静で、地を駆ける火蜥蜴へと変貌し、リュウを捜した。燃え盛る炎を身に纏い疾走する彼は、まさに火の化身。
昼寝を終え、んごうごうと共に帰宅途中のリュウは、そんなヘリオトロープに遭遇した。あっけらかんとして右手を上げたリュウに対し、んごうごうは一目で察する。
「んーごーぅごーう」
リュウを背中から放り出し、ヘリオトロープに預ける。
唖然としているリュウを連れ去るように、ヘリオトロープは踵を返す。
「え、何? 何?」
不思議そうに一人と一体を見比べるリュウに説明せず、ヘリオトロープは帰路を急いだ。んごうごうも、懸命に後を追う。
そして、行き交う人々もまた、そんな彼らを見て察していた。ある者は絶望して膝から崩れ落ち、ある者は酷く悲しみ号泣する。皆の不安は、的中していた。
リュウが辿り着いた時、既に父である王は息を引き取った後だった。一人息子のリュウは最期の言葉を聞くことも、看取ることもできなかった。
もし今日、ヴァジルの言いつけ通りに王宮で勉強をしていたら、間に合ったかもしれない。リュウに圧し掛かる、後悔の念。前途は暗闇に覆われ、一点の光明も認められない。
水晶で出来た棺の中、百合に囲まれて眠っている父の亡骸を立ち尽くして見つめる。底知れぬ哀感が襲い掛かり、意識が朦朧とする。
周囲で皆が口々に泣き喚きながら何かを訴えているが、リュウには聴こえない。
日に日に衰弱していく父の傍らに、もっと居てやればよかったと。ただ、過去の自分を悔いて責める事しか、今のリュウには出来なかった。見て見ぬフリをしていた、大丈夫だろうと言い聞かせていた、弱っていく姿が辛くて見たくなかった。
それれらは全て間違いだったと気づいたが、遅すぎる。
幻獣星では、王族であれども火葬となる。
太陽が三回巡り葬儀を終えると、王の亡骸は神官達によって丁重に運ばれ火葬され、そして骨になった。遺骨が王家の墓に埋葬されると、いよいよ現実に直面し、残された者達に悲しみの色が浮かぶ。
次の王は、若い王子。
スタイン・エシェゾー、その人だった。
誰からも愛されている王子だった、だからこそ、辛かった。
ついに隠し通してきていた事実が、彼に曝される破目になるのだから。王を失った悲しみよりも、王子にかかる負荷を皆、心配した。
きっと、王子は絶望するだろう。
もしかすると、心を壊してしまうかもしれないとも、嘆いた。
葬儀を終えると、リュウは自室に閉じこもった。放心状態で、寝台に転がっていた。何も口にしていないが、空腹であることすら解らない。呼吸する事を忘れてしまったようにも思える。
「生きるって、なんだっけ」
何もかもが、面倒になってしまった。
部屋の外では、四六時中んごうごうが浮遊して主人を待っていた。大きな瞳を時折伏せて、健気に主人が出てくるのを待っている。
ヴァジルはそんな様子を知ってはいたが、多忙の為リュウに会う事がなかった。
日々、ヴァジルを中心に今後の行く末について会議が繰り広げられている最中も、リュウは一人で過ごしていた。いい加減自分も皆の前に立たねば、と思い直し、ようやく重い腰を上げた時は、既に父親の死から三十日が経過していた。
食事を数日抜いたところで餓死などしない種族だが、さすがに期間が長すぎる。やせ衰え、瞳虚ろに部屋から出ようとした。
ようやく外で、んごうごうの気配を感じた。躊躇して、力なく腕を下げる。気付こうと思えば気付けたのだが、周囲に目を向ける事が出来なかった。恐らくずっと、忠実な合成獣は待っていてくれたのだろう。想像すると、罪悪感に苛まれる。
自分の非常に脆弱な部分を恥じ、脚を向けるのを止めた。暫しその場に立ち尽くす。
……んごうごうならずとも、引きこもっていた自分にも、皆は暖かい笑顔で迎えてくれるに違いない。ヴァジルくらいだろうか、叱咤してくれるのは。
次期王だというのに、こうして引き篭もってしまった不甲斐無い自分に嘲笑する。皆の優しさに触れると余計に惨めになる気がして、ゆっくりと後退した。逃げていてばかりでは進めないが、急に身体が震え出す。両腕を掴み、爪を立てる。足元が竦む、引き攣った笑顔しか浮かべることが出来なさそうな自分に嫌気が差す。
外套を羽織り、頭巾を深く被ると身体を反転させる。蒼褪めた表情で窓を開き、枠に足をかける。部屋は一階なので、窓から外へと出ることが出来る高さだ。
そのまま外へ飛び出したリュウは、逃げるようにして姿を見られないよう宮殿を離れた。
城は、森林に囲まれている。
森の中を走っても何処へも行く場所などないのに、それでも自分の部屋には居たくなかった。そして今は誰にも会いたくなかった、そんなことが許される筈がないのに。
心地良かった筈の一人の空間が、急に怖くなっていた。
時折聴こえる羽音や風の音に身体を硬直させながら、周囲を窺いつつ走る。息が切れれば額の汗をぬぐって、それでも脚は動かした。
絶叫すれば、このどうしようもない絶望感は取り払えるのだろうか。
小川の水を掬い、口に運んで喉を潤す。情けない顔が映っているのが見えて、自嘲気味に笑った。クマができやせ衰えた自分は、とても威厳などない。
こんな王で、誰が慕ってくれるのだろう。いや、それでも皆は慕ってくれるからこそ、心痛だ。
「私では、皆の望む王にはなれぬ。自分が、一番よく解っている」
兄弟はいない、王家は血筋で選ばれるのでこの運命からは逃れられない。他に優秀な者がいるだろうに。
ふと、弾かれて顔を上げた。王である自分が法案を覆してみたらどうだろう、と思いついた。
「ヴァジル!」
微かな期待を籠めて小さく叫び立ち上がると、逸る気持ちを抑えて唇を噛締める。
幼馴染のヴァジルならば知識も豊富で皆の信頼も厚い、自立した優秀な男だ。彼に王座を任せたいと願い出る事を思いついた。王子としての意見ではなく、一旦は代理の王となり、提案したら通るのではないかと踏んだ。
実績と信頼があるヴァジルならば、誰も文句は言えまい。
「私は、ヴァジルの隣で。……真面目に一から勉強をやり直そう。彼に恥じぬ宰相になれるように、努力しよう」
希望が見え、若干笑みが戻ってきた。
自室へ戻る前に、せっかくなので街を散策することにした。森林をやや足取り軽く歩き続ければ、町が見えて来る。
通り道の木にたわわに実った林檎がぶら下がっていたので、それをもぎ取ると齧りながら歩く。久方ぶりの食事だった、甘くて瑞々しい林檎に自然と口角が上がる。
今日は、鬱蒼とした分厚い雲が太陽を覆い隠していた。
自分の正体を悟られぬ様頭巾を更に深く被り、周囲を見渡す。
誰も、路にはいなかった。
普段は誰かしら、何処かにいる筈なのだが。
家の中からすすり泣きが聞こえたので、リュウは無性に胸がざわめき、ぎこちなくそちらへ向かう。
リュウも知っている、水竜の一家が住まう家だ。小ぶりの窓から、そっと中の様子を窺う。
「おかーさん。おとーさんは? おにーちゃんは? 向かいのおねーちゃんは?」
「……うぅっ」
「いつになったら、帰ってくるの? どこへ行ったの?」
「……うっ、うっ」
家には、母親と幼い子が一人。母親は、静かに涙を零して幼子を抱き締めていた。
リュウにはなんのことだか、さっぱり解らなかった。
病気で亡くなったのだろうか、それしか考えられないが、一度に三人も亡くなるものなのか。妙な伝染病でも広まっているのだろうか。
唖然として、暗い家の中を見つめていた。
これこそ、今まで知らされていなかった真実。ぞっと鳥肌が立ったような恐ろしさに、歯が鳴る。
「お父さんも、お兄ちゃんも。向かいのお姉さんも、山のおじさんも。旅行中なのよ、旅先がすばらし、く、て……。きっと、きっと、帰って……うぅっ」
床に崩れ落ち号泣する母に狼狽し、連鎖して泣き出した幼子。
いてもたってもいられなくなり、リュウは弾かれたように家の玄関に回りこむと強引に中に入った。
「すまない! 謝罪などしても断罪は免れないが……私の無責任な行動が引き起こしてしまった結果なのか!?」
真面目にヴァジルから授業を受けていなかったリュウは、思い込んでしまった。王という存在で惑星が支えられていたとして、各地で天変地異が多々発生しそれに皆が巻き込まれているのではないか、と。
頭巾を外して姿を現した若き次期王に、唖然とした母は硬直する。
幼子が泣きながら、リュウの足元にしがみ付いてきた。
顔色を変えた母親が手を伸ばしかけたが、遅い。
「スタイン様! みんなを助けて。何処へみんないっちゃうの? どうして“帰って”こないの?」
「スタイン様、お忘れくださいっ!」
絶叫した母に、リュウとて違和感を覚えた。すがりつく幼子と、母親を見比べる。震えながら必死に自分の外套を掴んでいる幼子と、脅えて唇を紫にしこちらを訴えるように見つめている母と。
リュウは恐ろしく静かに、冷たい声を発した。
「……何か、隠して?」
「い、いえ、そのようなことは! りょ、りょこうに、りょこうに……」
「みんな、いなくなるの。どこへ、行っているの? スタイン様なら、知ってる?」
母は無理やり我が子を引き剥がし抱き寄せ、口を塞ぎ床に崩れ落ちる。背中を丸めて、嗚咽を繰り返す。幼子は必死にもがいて、リュウに助けを求めるように小さな手を伸ばしている。
「……どうか、教えてくれないだろうか。私は何を知らないのだろう」
「わ、私は何もっ! ヴァジル様に、ヴァジル様にっ」
大きく身体を震わす母は、見ていて気の毒なほど脅えている。
彼女が何か隠していることは明確だ。追求するのも気の毒だったが、知りたい。意を決してリュウは片膝つき、母に首を垂れた。
「どうか、教えて欲しい。……皆は、“いなくなる”のか?」
「……あ、あぁっ! スタイン様は悪くないのです、悪いのは人間で」
母親の悲痛な声に、リュウは首を傾げた。知らない単語だった、だが、確実に聞き取った。
「ニンゲン?」
慌てて口を塞いだ母親だが、もう遅い。顔を上げてリュウを見つめると悔しそうに、唇を噛締める。その唇から、血が流れ落ちていた。水竜の血は、緑色だ。震えながら必死に我が子を抱きとめつつ、ようやく、ぽつり、ぽつり、と話し出す。
リュウは、愕然とした。
このように重大な事を隠されていたことを知り、底なしの沼に身体が沈んでいくようだった。
絶望しかない。
リュウは物言わず、おぼつかない口調の母竜の話に耳を傾けていた。聴き終わった時、ふらつく足取りで立ち上がるとそのまま家を出て行く。
「スタイン様っ、私達は」
「……すまない、と何度言えば赦されるのだろう。赦してくれとは言えない、必ず連れ戻すとも言えない。だが、“助け出してみせる”から。私の命に代えても、必ず助け出すと約束する。……有難う、無知な私に教えてくれて」
眉の辺りに決意の色を浮かべたリュウは、彼女らにそう言い残した。
家の中で、断末魔のような叫び声が聞こえる。何事かと近辺の住民達が慌てて飛び出してきた時、そこにはリュウが外套をはためかせて立っていた。
皆、久々に見たリュウの姿に笑みを見せ声をかける。しかし、様子がおかしい。
彼の瞳に、光がない。口元に、笑みがない。皆の好きな、リュウのあの穏やかな雰囲気など微塵もない。
声をかけられても、リュウは反応すらしなかった。ただ、静かに皆に囲まれた路をはっきりとした足取りで進むだけだった。
空には、太陽の光がない。
空気は乾燥しており、時折寂しそうに木の葉が落ちる。
堂々と歩くその姿は、確かに威圧感があった。今までの王子とは、全く異なる。
しかし、感情が読み取れない。それは意志薄弱しているようにも、自暴自棄になっているようにも思えた。
幻獣達は異様な雰囲気に、無言で歩くリュウをただ見守った。一歩後退し路を開ける様にして、固唾を飲み見守る。
「スタイン様、お待ちくださいませ! スタイン様っ」
飛び出してきた水竜の声に、僅かにリュウは首を動かした。けれども、脚は止めなかった。知らず早足になった。やがてあの親子が皆に何があったのかを話すだろう。その時、自分は何を言われるのだろうか。
『貴方様のせいではありません』と言われるのだろう。
……耐えられない、どうして今まで自分だけが何も知らずに生きてきたのだろう!
城へと続く道程を淡々と歩いているが、腸は煮えくり返っている。冷静に見えて、何かが胸のうちで破裂しそうだった。自分の内で澱みが蠢く、どう感情を表して良いのか分からず、表情は硬ったままだ。
名状しがたい不快感が心を抑えつけ、身体を飛び出し周囲に零れ始めた。
リュウの身体から湧き上がるその魔力の破片が、小道の花を揺らす。枯らすことはなかった、ただ、変色した。純白の花は、深紅に。萌黄の葉は、灰色に。
異変を聴きつけ、ヴァジルとヘリオトロープが駆け付けた。
彼らを一瞥すると、皮肉めいて嗤う。想定内だ、自分を捜していたに違いないのだから、遅かれ早かれこうなると思っていた。
「スタイン様。部屋から出たのであればまず、私に会いに来るのが筋でしょう」
平素通りのヴァジルの声色に、皆が緊張した面持ちで見守っている。
異様な雰囲気をヴァジルが感じ取れない筈は無いが、淡々と告げる。ただ綺麗な瞳でリュウを捕らえ、視線を逸らさずに真っ向から対峙した。
「……そうだな、悪かった」
「積もる話がございます、宮殿へ戻りましょう」
「私も話がある、丁度良い」
「んごうごうも、心配しております」
会話の流れに、皆は胸を撫で下ろす。
再び歩き始めたリュウは、ヴァジルの傍らを通り過ぎるが、見向きもしなかった。
ヘリオトロープが全身に奇怪な汗をかきながらも、後方で不安そうに見つめている民に軽く片目を瞑り笑いかける。今は民を不安の渦に突き落とすわけにはいかない。口元を拭い、自分の震えている右手を固く握り締めると、リュウとバジルを追う。
残された者達も、不安が拭いきれずにおずおずとついていった。
宮殿へ、と。