外伝4『月影の晩に』23:惨状と残された騎士

文字数 7,929文字

 約三ヶ月前。トレベレスとベルガーが、ラファーガ国を滅亡へと追いやった愚行後。
 城下町では悲鳴が絶えず、火災に追われて国民は逃げ惑っていた。皆、唖然として惨劇を見守ることしか出来なかったが、せめて生きねばと助け合った。中には未来を悲観し、自ら命を絶つ者もいた。しかし、多くは自分を、親兄弟を、そして同じ様に死に物狂いで生きている隣人達を護ろうと躍起になった。
 火災だけでは飽き足らず、娘や母、幼子を攫われてしまった家もあった。自然豊かな国、ラファーガに突如訪れた破滅の足音。そんな中で、怒りの矛先を人々は既に決めていた。
 絶望の中で、多くの人は心を歪ませてしまう。それが、道理だ。
 城内にも生存者は数名いた。運よく逃れた者達は食物や財宝を手にすると、一目散に我が身を護る為に飛び出していた。城は崩壊したのだ、留まっても意味がない。
 そんな阿鼻叫喚の、地獄絵図の中。
 騎士トモハラ、壁に叩きつけられ両目を剣にて殺傷。
 騎士ミノリ、腹部を槍にて貫かれ瀕死。
 姫アイラ、壁に叩きつけられ槍で腹部を突かれ。

「マロー。マロー……」

 息苦しさに、アイラは霞む瞳を必死にこじ開け、ようやく意識を取り戻した。激しく咳き込む、息を大きく吸いかけて、肺の激痛に耐えられずに止める。
 一面を覆い尽くしている煙を吸い込み、酸素不足で喉を二酸化炭素と煤に侵された。皮膚が焼けるように熱く、鋭い悲鳴を上げる。熱いのは、城が燃えているからだ。高温になった空気と壁に気づき、ここに居ては焼け死んでしまうと焦燥感に駆られる。震える手足に力を入れて、身体を動かしていく。
 額から流れる何かに手をやれば、深紅の血が目に入った。壁に叩き付けられて怪我をしたのだろう。呻きながら高温の壁を助けに立ち上がると、ミノリとトモハラが倒れこんでいる姿を見つける。駆け寄りたいが、脚が思うように動いてくれない。唇を噛締めながら、右脚をゆっくりと前へ出す。

「手当て……手当てを。二人を、助けなくては、ならないの、です」

 うつろに、それだけを繰り返す。
 煙で、視界が遮られていく。炎の広がりが速いのだろう、狭い通路に押し寄せる煙と、酸素を確実に奪っていく炎は、勢いを弱める事がない。悔しくて、脚を動かした。生きている意味を考えたら、それしかない。自分は、二人を助けねばならない。辿り着いたところで何が出来るというわけではないのだが、それでも。

「待ってて、ミノリ、トモハラ。必ず、私が、あな、た、たち、を」

 ぐらり。
 アイラの身体が大きく揺れ、階段を転げ落ちるように落下した。無茶をしていた身体に脳がついていかず、そのまま意識を失った。
 しかし。まるで、誰かが支えたように。空気の抵抗、柔らかな風がアイラの身体をゆっくりと、二人の元へと運ぶように静かに動かす。二人のもとで身体を強打することなく、優しく倒れ込んだ。それは不自然過ぎる動きだった、何者かの力が働いたとしか思えない。
 周囲で、爆音が上がる。現在、城の位置でいうなれば四階。窓から飛び降りれば、下は木も草も生えている地上に出られる。しかし、高すぎる。せめて二階ならばどうにかなったろうが、四階では自殺行為だ。そもそも、飛び下りる力など残っていない。
 燃え盛る城内、黒煙渦巻き、身動きすら出来ない瀕死の三人。姫と、騎士が二人。
 絶望的なこの状況下で、奇跡は起きた。起きたのか、“起した”のか。それは奇跡“ではない”のかもしれない。
 城は、崩壊を始める。三人は、崩れ行く天井に押し潰されてもおかしくはなかった。いや、むしろそれが普通だった。壁は内部から脆く壊れゆく、ついに城は崩潰を始めた。
 だが三人の居た箇所だけが斜めにスルリと、何かに護られるようにその空間だけが炎を微塵も寄せ付けず、瓦礫すら跳ね返し、波が攫っていく砂の様に、徐々に滑るように静かに地面へと向かう。上手い具合に壁が炎を遮断し、個室を造るように倒れた壁が取り囲む。三人を護るように、不可思議な空間が出来上がった。倒れこんでいたミノリとトモハラの上に、アイラが覆い被さっている。
 地面に辿り着いたその一角で、アイラの指先が地表の草に触れた。
 その瞬間、蛍の光のような、弱々しい儚い小さな光が無数に地面から湧き上がった。そして、静かに雪が降り積もるとは間逆に、仄かな無数の光の珠が、三人の周囲の地面から湧き上がり、空へと昇って行った。
 アイラの唇が、震えるように微かに動く。ミノリの腹部の傷口に、右手を添える。トモハラの両目に、左手を添える。無意識で腕を動かしたアイラの、両の手の平がやんわりと光り始めていた。静かなる、空間の中、間近で燃え盛る炎など気にも留めず。
 そこは、隔離された異空間だった。
 どのくらいの時間が経過したのだろう。その状態のまま、三人はそこで眠りについていた。無数の発光体は消えることなく、三人を守護するようにその場に留まり、水の中で揺らめくように漂っている。
 そこを例えるならば、聖域。不可思議な何か、人知を超えたもの。そんな場所で、三人は穏やかな笑みを浮かべて眠りについていた。
 暫くして何かが近づいてくる音が、僅かながらに聞こえて来た。一瞬発光体は停止したが、再びゆらゆらと前後左右に浮遊を始める。まるで、近づいてきた“もの”が何かを識別し、害はないと判断したかのように。
 やがて蹄の音が近づいて来た、一頭の漆黒の馬が火に臆することなく進んで来る。
 それは、トライがアイラに譲渡したデズデモーナだった。馬小屋から逃げ出し、アイラを探していたのだろう。信頼している主を見つけると、口で衣服を咥え揺り起こし始めた。
 アイラは眉を顰めて、重い瞼を動かす。
 その身体を懸命に鼻先で揺するデズデモーナだが、アイラは寝返りをうつのみだ。デズデモーナは器用に首を使い、滑るようにしてアイラを背中に乗せると、その場を後にした。
 それでも無数の発光体は、ミノリとトモハラを包み込んだままだった。
 ここは、絶対治癒領域。その場に居れば、自然と体調も怪我も治癒に向かう。ミノリの腹部の傷はほぼ完治していた、トモハラとて今は静かに寝息を立てている。瞳の傷は徐々に癒え、本人達が起きてこそ、何が起こったのか理解出来るのだろう。
 このような芸当、出来る者など限られてくる。 

 デズデモーナはアイラを乗せてゆったりと森の中を歩いてたが、不意に歩みを止めた。そしてアイラを背から下ろす。それはとても器用で、まるで男性がアイラを背負い、優しく下ろしたようにも見えた。
 アイラが下ろされた場所は、柔らかな苔が一面に生えている森の最深部である。老木ながら、溢れる威厳に満ちたその神聖なる場所の前に、湧き水で出来た小さな池があった。木々に遮断されながらも辿り着いた陽射しが、キラキラと水面に反射している。
 楽園、と人が呼ぶであろう光景である。

「ん」

 アイラは触れている地面の感触に気付き、薄っすらと瞳を開くと身体を恐る恐る動かした。まず、仰向けになる。目に飛び込んできた心配そうに覗き込んでいるデズデモーナに薄く笑うと、右手を延ばして鼻を撫でた。

「助けに来てくれたのですね……。ありがとう、ありがとう、デズデモーナ。貴方も怖かったでしょうに、よくぞ無事で」

 優しい瞳に見つめられ、アイラは涙を零した。緊張感が一気に緩み、暫く擦り寄って来るデズデモーナの温かさに触れて泣きじゃくっていた。信頼関係を築けていたことに満足し、愛おしくデズデモーナを撫でる。
 デズデモーナは気持ち良さそうに、鼻を鳴らして尻尾を振っていた。

「ここは、何処?」

 左の肘に力を籠めて、上半身を起き上がらせる。初めて見る光景だった、唖然として手入れされたような完璧な美しさの情景に目を奪われた。デズデモーナの頭を両手で抱き締めながら、隣の湧き水に視線を移す。あまりに、甘くて美味しそうな水である。思わず喉を鳴らせば、風が大きく吹いて木を揺らす。

 ――お飲みなさい。そして、お帰りなさい。

 脳内に突如として響いた声に驚き、アイラは小さく悲鳴を上げると周囲を見渡した。それは敵意のない声で、どこか懐かしい老人の声だった。デズデモーナを震えながら抱き締めて様子を窺うが、周囲には何の気配もない。
 喉が渇いていたのだろう、デズデモーナが先に水を飲み始めた。
 アイラは暫し水面に映る眩い光を見ていたが、満足そうに飲み終えたデズデモーナに微笑すると、自分も両手で水を掬い口へと運ぶ。空から降った恵みの雨が、森林の恩恵に抱かれて地中を潜り抜け、風ある地表に顔を出し光を受けた水。鳥肌が立つほどの冷たさとそして、洗練された美味さだ。乾ききっていた喉を、無我夢中で潤していた。高温の場所に曝されていれば、体内とて水分が当然失われる。幾ら飲んでも、まだ足りない。
 静かに、森の中で水音だけが響き渡っていた。
 口を拭い、ようやく満足そうに顔をあげたアイラは余裕が出来たので、周囲に目を走らせる。不意に見れば近くの木に、何やら実がなっていた。必死に、図鑑を思い出して名前を探る。

「林檎」

 呟くとデズデモーナと共に木へと移動し、手を伸ばしてみるが届かない。デズデモーナの背に立ち上がって、林檎を数個もぎ取った。短かったドレスの裾をさらに破いて、簡易な風呂敷にして持ち帰ることにする。腹が減っているであろうデズデモーナに、数個食べさせた。
 見れば、他にも実がなっている。

「これは、瓢箪」

 中を掻き出し、洗えば簡易な水筒になると以前本で読んだことを思い出し、早速実践する。先を歯で噛み千切り、中を懸命に指でかき出す。水をありったけ詰め込むと雄大に佇んでいる老木に深く頭を垂れ、恩恵の森に感謝の祈りを捧げると、デズデモーナと歩き出した。
 さわさわさわ。
 風が、老木達の木の葉を揺らしていた。『いってらっしゃい、頑張りなさい。敗けてはなりませんよ、貴女様ならば勝てる筈です。気の迷いに、飲み込まれなければ……』アイラに告げるように、葉を優しく揺らしていた。

 デズデモーナがミノリとトモハラの居場所へ案内してくれたので、直様かけつけたアイラは、二人の口元に先程の水を流し込んだ。
 喉が潤いを欲している二人は冷ややかな液体を感じると、無心で唇を動かし飲み込む。
 アイラはそれを見て安堵の溜息を吐くと、持ってきた瓢箪の水を全て二人に与え、林檎を包みから取り出す。一つを齧りながら、再びデズデモーナと歩き出した。それは愛情を籠めて育てられたような、非常に甘くて瑞々しい林檎だった。生命力が沸いてくるような、そんな気さえして来る。勇気付けられて、身体は重くともトモハラとミノリを思い必死に身体に鞭打った。
 向かう先は、炎から逃れている城の一部だ。薬草や食料などが残っていないか、探しに来た。すると、食料となるべく飼われていたであろう鶏が焼け死んでいる姿を見つけた。焦げてはいないので、どうにか食べられそうだ。喜んで持ち帰った。
 そしてアイラは森で茸や木の実、山菜に果実を採る。欠けた剣の先で懸命に木を彫り、ぶかっこうだが食器をこしらえた。
 いつ二人が起きても良いように、準備を整える。目が醒めたら、見様見真似だが料理をし、二人に食べさせるのだ。

「きっと、お腹が空いているもの」

 アイラは自分の食事など後回しにして、昼間は懸命に駆けずり回った。そして夜は城の火が耐えないので暖かく、寝る間も惜しんで二人を看病する。これは、不幸中の幸いだ。
 全身が煤と泥まみれだ、拭えば余計に汚れが広がる。それでも、そのままだった。緑の髪が灰を被って白くなろうとも、二人の傍から離れようとはしなかった。
 焦げていたが毛布を確保したアイラは、早速地面に敷いて二人を改めて寝かせた。汗を拭いながら、何度も城に潜入し探索する。
 三日後、鍋を見つけ自分でスープを作ることを憶えたアイラは、材料調達の為に再び森へと入った。食べられる草木は、図鑑で覚えていた。香辛料とて調理場から見つけられた。身体の回復に必要なのは、栄養素の高い消化によいものを沢山食べ、清潔な場所で眠りにつくこと。二人の為に全ての知恵を振り絞り、毎晩夜遅くまで活動を止めない。だが、流石に森は夜に足を踏み入れられず、太陽が昇ってから入っていく。
 
 森でアイラが彷徨っている間に、街の火事は沈下しつつあり、善良なる人々が生存者を探し城までやってきていた。当然、ミノリとトモハラの姿を見つけ、慌てて荷台に二人を乗せるとそのまま街へと戻って行く。
 信じられないことに、傷が完治していたミノリは周囲の騒がしさに怪訝に瞳を開いた。

「あぁ、起きたかい!」
「さぁさ、これを」

 数日身体を動かさなかったので、感覚が衰えていたミノリは背を支えてもらい、スプーンで口までスープを運んでもらった。数時間前も誰かがこうしてくれていたような気がしたが、朦朧としており夢であったような気さえしてくる。
 隣のトモハラは、まだ眠っていた。だから、ミノリも再び眠った。
 やがて、目を醒ます。身体が軋むので、今までの事は夢ではなく、生きている事を実感する。

「よく生きてたな、俺……」

 茫然と、呟いた。ベルガーの槍に突かれた際、死を覚悟したのだが、浅かったらしい。さらに、目を覚まさないにしても、トモハラも生きている。様々な事を考え過ぎて頭痛が始まり、苦痛に顔を歪めた。蹲り、震えながら呼吸を整える。今になって戦いの恐怖が、ミノリの精神を脅かした。
 簡易なテントの薄暗い空間で、ミノリは一人泣く。怖かった、悔しかった、本当は足が竦んでいた。皆が死んだ、殺された。異常な光景の中で興奮状態に陥り、あの場では恐怖すら感じる暇がなかったのだろう。
 惨状を思いだし嘔吐したが、駆けつけた街人に助けられ精神を落ち着かせると、ようやくミノリは立ち上がった。近所の人達と再会し、耳を塞ぎたくなるような情報を聞かされた。
 二人の王子の率いる兵士達が、城下町に押し入り火を放ち、破壊の限りを尽くしていった事を。そして、馬車に投げ込まれた黒の姫君の事を。しかし、誰も緑の髪であるアイラの姿は見ていないことを。
 ミノリは不審に思った、確かにアイラは連れ去られないだろうが、だとすると何処へ行ったのか。まだ城にいるのか、死んでしまったのか。
 そして。

「ミノリ! あんた、騎士だったんだろ!? マロー様をお助けに行くのかい?」
「あの子が奪われたら、ラファーガはもうおしまいじゃて」
「呪いの姫君は、何処に。この災いも嬉々として呼び入れたのじゃろうか」
「あぁ! 呪いの姫君のせいで!」

 全ての不満が、アイラへ向けられていることを知った。不幸な目に合った人間は、多くが不幸を誰かのせいにしたくなる。自己防衛の手段だ、気を紛らわせ、自分を少しでも助けようと他者を見下し蔑む。幸いこの国には、その標的となる人物がいた。
 ミノリは、自分がその呪いの姫君付きの騎士であったとは言えず口を閉ざした。言うだけの精神が完全に戻っていなかったこともある、けれども。
 言えなかったのだ、言い出せなかった。
 あまりに酷いこの惨状に、自分もどうして良いか解らず。そして一向に瞳を開かないトモハラが、心底心配で。無力さを痛感し、虚ろな瞳で憤慨している人々を一瞥する。
 多大な被害に見舞われた街を散策していると、皆がミノリに声をかけた。「マロー姫様を助けて」と。
 一人残った騎士に、周囲から圧し掛かる期待は“繁栄の妹姫の救出”である。

 ……たった一人で、どうしろと。勇者でもないのに、どう戦えと。

 ミノリは人々の声を聞きながら、徐々に苛立ちを憶えていた。自分達は何もしないで、他人に責任を押し付ける。そもそも、マローの警護についていたのはトモハラであって、自分ではない。そう告げようとしたが、となるとミノリは今非難を浴びているアイラの騎士だったということになる。
 さすれば、自分も非難の対象になるかもしれない。街では、皆が口を揃えてアイラを罵っていた。追い詰められ、食事もままならず、苛立ちも収まらず、皆がアイラの呪いのせいだと叫んでいた。
 その中で、アイラの擁護などとてもじゃないが出来るわけがない。それほどの気力をミノリは持ち合わせていなかった。生きているのに、瞳は死んでいる。呪縛の様に繰り返されるマローの救出と、アイラへの暴言に、いつしかミノリも思い始めていた。
 事の発端である“元凶”を。

「大変よ! ミノリ、あんたのトコの家族が死体で見つかったって!」

 救助活動は続けられていた、人同士助け合わねばと街の修復に取り掛かっている人々も無論存在する。そんな中、本調子ではないので転寝していたミノリに衝撃の事実が突きつけられた。
 遺体は街の端に集められ、埋葬された。ミノリは無我夢中でそこへと走り、家族の亡骸を確認した。顔が多少火傷していたが、間違いなく家族だ。焼かれたのではなく建物の下敷きになり、圧死したらしい。身体の損傷が激しく、思わずミノリは嘔吐する。神父が肩を支えてくれたので、力が抜けて泣き喚いた。騎士になれたことを喜んでくれた家族は、僅かだが仕送りもしていたので生活が随分楽になったと手紙を送ってくれた。結局、最期にあったのはいつだったのか。

 ……こんなことなら、逢いに行けばよかった! いや、最初から騎士になんてならなければ。

 茫然自失でトモハラの隣へと戻ると、腰を下ろして項垂れる。発狂しそうな勢いで、声にならない叫び声を上げた。一人で、どうしたら良いのか。親友は起きない、家族は死んだ。
 ミノリは“何故助かったのか”を、考える余裕がなかった。腹部の傷を、忘れていた。この惨劇の中、騎士だからと皆に期待の視線を投げかけられて追い詰められていた。
 自分が瀕死の傷を負うまで護っていた、大事なものが思い出せなかった。
 今思うことは騎士にならなければよかった、それだけだった。そうしたら、家族と共に真っ先に街を抜け出し、別の小さな村で暮らす事が出来たかもしれない。
 そうなると、全ての元凶はやはり“呪いの姫君”である。彼女さえいなければ、回避できた筈だ。
 騎士となり、自分が護ると誓った眩しい存在。不安定な精神状態のミノリには、それが思い出せなかった。忘れ去ろうとした、消し去ろうとした。全ての思い出を、あの城の中での甘い恋心を黒のインクで塗り潰した。
 頭を掻き毟りながら、地面を蹴り上げ続ける。心に、ドス黒い染みが広がっていく。
 もう、負の感情は止められない。誰かが耳元で囁くのだ、『そうとも、君は何も悪くない』と。
 外で、絹を裂くような悲鳴が上がった。
 一つのざわめきが広がったと思えば、水を打ったように急に静まり返る。
 ミノリは、無造作に顔を上げた。そして、見た。声を、聴いた。

「ミノリ! あぁ良かった、無事でしたか!」

 馬に乗った緑の髪の娘が、目の前にいる。喜色満面で、声をかけてきた。
 身なりは汚いが、上等そうな布を身に纏っており、そこらの娘にはない気品を醸し出している。何より、汚れていても緑色の髪は隠し通せない。
 誰しもが気づいたのである。彼女こそが、“呪いの姉姫”だと。
 つまり、元凶であると。
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登場人物紹介

アサギ(田上 浅葱) 登場時:11歳(小学6年生)

 DESTINYの主人公を務めている、謎多き人物。

 才色兼備かつ人望の厚い、非の打ち所がない美少女。

 勇者に憧れており、異世界へ勇者として旅立つところから、この物語は始まった。


 正体は●●の●●●。

ユキ(松長 友紀) 登場時:11歳(小学6年生)

 アサギの親友。

 大人しくか弱い美少女だが、何故かアサギと一緒に勇者として異世界へ旅立つ羽目になった。

 トモハルに好意を抱いている。

ミノル(門脇 実) 登場時:12歳(小学6年生)

 アサギのことを嫌いだ、と豪語している少年。

 アサギ達と同じく、勇者として異界へ旅立つ羽目になったが、理不尽さに訝しんでいる。

 トモハルとは家が隣り同士の幼馴染にして悪友。

 多方面で問題児。

トモハル(松下 朋玄) 登場時:11歳(小学6年生)

 容姿端麗、成績優秀であり、アサギと対をなすともてはやされている少年。

 同じく異界へ勇者として旅立つ。

 みんなのまとめ役だが、少々態度が高慢ちきでもあったりする。

 なんだかんだでミノルと親しい幼馴染。

ダイキ(中川 大樹) 登場時:11歳(小学6年生)

 剣道が得意な、寡黙な少年。

 人づきあいが苦手なわけではないが、自分から輪の中に入っていくことに遠慮がち。

 同じく、異世界へ勇者として旅立つことになる。

 やたらと長身で目立つことがコンプレックス。

ケンイチ(大石 健一) 登場時:11歳(小学6年生)

 ミノルと親しい可愛らしい少年だが、怒らせると一番怖い。

 同じく異世界へ勇者として旅立つことになった。

 従順だが、意に反することには静かに反論する。

リョウ(三河 亮) 登場時:11歳(小学6年生)

 作品のメインである一人。アサギは「みーちゃん」と呼んでいた。

 アサギと親しく、出会ってからは常に一緒だったが、勇者に選定されず、地球に取り残されてしまった。

 常にアサギの身を案じ、地球で不思議な能力を発揮している。

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