外伝4『月影の晩に』19:逃亡劇

文字数 7,767文字

 諍いに誘うような、攻撃的な視線を送り続ける女官らは、血塗れの凄惨な城内を知らない。未だにアイラを諦めておらず、騎士らの前に立っている。

「退きなさい、トモハラ。アイラ姫を迎えに来ました」
「いいえ、退きません。もうお休みになられています」
「あなたはマロー姫の騎士でしょう、アイラ姫は関係ないですよね?」
「中ではマロー姫もお休みです。ご存知の通り我らは姫の騎士です、彼女達の安眠を護る事こそ勤め」
「……たかが騎士の分際で」

 姫の寝室前では、依然トモハラと女官達の睨み合いが続いていた。緊迫した空気が漂う中で、騎士の一人が妙な違和感を感じ視線を外へと移す。夜だというのに、不自然に明るい。彼は息を飲み、悲鳴に近い声で叫んだ。

「た、大変です! 外が、燃えております!」

 弾かれたように騎士達は窓から身を乗り出し、それを確認した。今にも灰燼に帰する勢いで、迎賓館が燃えている。それはまるで、夕暮れ時のようにぼんやりと染まっていた。

「急いで消火活動を! 皆様方は無事だろうか、安否確認も怠るな!」
「はっ!」

 女官を突き飛ばし、騎士団長は的確に指示を出す。ミノリにトモハラ、他姫付きの二名ずつをその場に待機させると、他は疾風のように現場へと急いだ。
 しかし、そのような状況下でもトモハラと女官の睨み合いは続いている。迎賓館が燃えているということは、トレベレスらも巻き込まれている筈だ。今アイラを連れて行くことなど不可能、それが解らぬ女官ではあるまいに、最早意地の張り合いである。
 そんな中で、外の騒がしさに気づき目が醒めたのだろう、ドアが開きマローとアイラが顔を出した。

「ねぇ、どうしたの? まだ夜よね?」
「あの、外が昼間の様に明るいのです。ミノリ、何かあったの?」

 目を擦りながら出てきたマローに赤面したトモハラは、言葉が喉から出てこず狼狽する。後ろから来たミノリを引っ張り、代わってもらった。
 トモハルを一瞥し眉を顰めてから、非常に言い難そうにミノリは口を開く。

「火事です。しかしながら、消火活動中ですので、姫様方はどうぞご心配なさらず眠って……」
「火事!? 私も手伝います!」
「だーっ、言うと思ったんですよっ。だから知られたくなかったのにっ。寝ててください、大人しく寝ててくださいっ」

 勢い良くドアを開き、寝巻き姿のままアイラは飛び出した。そうして頭を掻きむしっているミノリの前に勇ましく立つ。

「何処が火事なのですか!?」
「えーっと」

 騎士達がアイラを凝視した、薄手の布地の寝巻は、妙な色気を漂わせている。思わず鼻の下を伸ばし見惚れてしまうが、それどころではない。

「デズデモーナを出します、あの子ならたくさんお水が運べます。馬小屋へ! マロー、貴女は此処にいなさい。トモハラ、マローをお願いしますね」
「落ち着いてください! 今皆で活動中ですから、お願いですから大人しくしていてください」
「でもっ」
「アイラ姫様に何かあれば、活動が遅れます! ですから、大人しく」
「でもっ」

 懸命に止めるミノリだが、必死に暴れるアイラを何処まで押さえていられるかが問題だ。離れていった騎士団長の後姿を思い描きながら、ミノリは身体を張ってアイラを止めた。姫の気持ちは痛い程分かるつもりだ、しかし、行かせるわけにはいかない。
 正面から抱き締める形になったが、食い下がらない。それは、願ってもいなかった出来事だ。しかし、死に物狂いのミノリは状況の把握が出来ていない。自覚してしまえば、赤面し硬直していただろう。ふわり、と揺れる髪が頬に触れても、暖かな鼓動を感じても、止める事に徹する。

 消火活動に向かった騎士達だが、忍び寄る魔の手により異変は起こっていた。一人、また一人と、後ろから順に消えていったのだ。それは、柱に身を潜めて機会を窺っていたトレベレス及びベルガーの配下の者達が暗闇より腕を伸ばし、口を塞いで的確に胸元に短剣を突き刺していたからだ。騎士らは無言で走っていた、その為気付くことが出来なかったのである。足音を立てずに、姫達の寝室へと確実に魔の手は伸びていた。

「騎士団長殿、捜しましたよ」
「おぉ、ご無事でしたか」

 やって来たベルガーとトレベレスの姿を見つけ、騎士団長は一瞬力を抜いた。来客に何かあればそれこそ一大事だが、二人は無事だった。
 当然だ、火を放った張本人なのだから。

「トレベレス殿と外を散歩しておりましたので、火に巻き込まれる事はありませんでした。消火活動に、我らの手の者も良ければ御使い下さい、役に立てましょう。貴殿の指示を仰ぐよう伝えて有ります」
「忝い、助かります」

 頭を垂れた騎士達の数は、もはや四人。ベルガーは目配せすると直様背後に下がり、代わりに前に進み出た家臣達が剣を引き抜く。
 顔を上げた騎士団長に素早く剣が振り下ろされた、驚愕の瞳に映ったベルガーは無表情で槍を構えている。その槍が額を容赦なく貫いた時には、もう彼は絶命していた。

「消火活動、期待しております」

 槍を抜き、ベルガーは見るのも馬鹿らしいとでもいうように平然と脇を通り過ぎた。
 騎士達はその場に崩れ落ちる直前、火災の原因を知った。そうして騎士達は、姫の名を呼ぶ。しかし、もう彼女らの元へ戻る事は出来ない。残してきた騎士らに望みをかけるより、他なかった。

 堂々巡りの口論を続けていたアイラとミノリだったが、トモハラが異常な城内の気配を察知し、二人の間に割って入った。剣を構え、ミノリと他の騎士達にも構えさせると、暗闇に視線を走らせる。そして、静かに声を漏らした。

「アイラ様、マロー様。どうか、お部屋へ」
「トモハラ?」
「必ず御守り致しますから、どうか、お部屋へ」

 言い終る前に、暗闇から影が飛び出してきた。悲鳴を上げたマローを抱えて、察したアイラが部屋へと飛び込む。
 剣がぶつかる、鈍い音が響く。混乱気味のマローから目を離さず、急いで暖かな上着をかけたアイラは、果実ナイフで寝巻きの裾を切り、結んで膝上で縛り上げた。トライから譲り受けた細身の剣を引き抜き、ドアからそっと顔を出す。すでに女官は一人死んでいたが、腰を抜かしていた女官の腕を引っ張り部屋に引きずり込むと、再び外の様子を窺う。

「行け! ミノリ、トモハラ! お二人を連れて逃げるんだ! 後で合流するっ」
「で、ですがっ」

 騎士は六人、敵は四人程。
 ランプで照らされた彼らの顔は、知っている。ベルガーとトレベレスが連れてきた者達だと気づいたアイラは「どうして?」愕然として呟く。しかし、今は考えている余裕などない。唇を噛み締め飛び出し、騎士達の前に躍り出る。一人の騎士に向けられた剣を、懸命に防いだ。

「アイラ様! 出てこないで下さい!」
「騎士団長が不在なのですから、私の指示に従いなさい! 皆、部屋の中へ!」
「で、ですが!」
「良いから、早くっ」

 声を張り上げるアイラに引き摺られるように、騎士達は必死に攻防をしながら後退し、部屋へと潜り込む。外に居たアイラを引っ張り、一人の騎士が外からドアを強引に閉めた。

「カルダモン!? 早く中に!」

 ドアから外にいるであろう騎士にアイラは精一杯声を張り上げ名を呼ぶ、外で騎士が至極嬉しそうに笑った。

「名前を憶えて戴けて、光栄でございます。早く、お逃げ下さい」

 騎士は一人、外で戦うつもりなのだろう。

 ……ありがとう、ごめんなさい。

 震える手で施錠すると、涙声で呟いたアイラは涙を拭う。そうして、騎士達に動かせる家具をドアの前に運んで貰い、時間稼ぎを始めた。部屋を見渡せば、震えるマローに、放心状態の女官、そして手負いの騎士が三人にミノリとトモハラがいる。混乱と恐怖で心臓が痛い程に動いているが、気丈に前を向くと壁際の本棚を横に軽々とずらした。
 すると、そこに通路が現れる。皆は、唖然としてそちらを見た。
 アイラは以前森へ出向いた際に摘み取った薬草を夢中で鞄につめこんだ。それから、手負いの騎士達に水を渡すと、手づくりの薬を無理やり飲ませる。冷静に深呼吸し思考を正す、鎮痛剤は今飲ませた、敵が部屋に侵入してくるまでの時間稼ぎは出来た。武器もこうして手にしている、ランプもあるだけ火を灯した。
 アイラは瞳を閉じると、鋭く叫ぶ。

「抜け道があります。行きましょう、何処かに身を潜めるのです!」

 茫然としている騎士達に叱咤し、アイラは自分が先頭となって中へ入った。裏側から本棚を戻し通路を隠蔽すると、階段を突き進む。
 震えたままのマローは、トモハルが背負っている。嫌がることはおろか、憎まれ口を叩く気力すらなく、大人しくしている。

「アイラ様、この道は何処へ続いているのですか?」
「様々なところへ行く事が出来るので、今、安全な場所を思案しています」
「どうしてこのような通路を知っているのですか?」
「幼い頃から読んでいた本の中に、城の見取り図がありました。把握は出来ています」

 さらりと告げたアイラだが、不審に思う余裕を誰も持ち合わせていない。“一体誰が、破壊の姫君に城の見取り図を渡したのか”、普段であれば、気づけただろうに。
 アイラは懸命に脳内で地図を描き続け、安全な道を探した。時折、壁の向こうから衝撃音が聞こえ、心が挫けそうになる。その度に、自分を叱咤した。

「ベルガーとトレベレス。あいつらっ! だから俺は反対だったんだっ」

 ミノリが吐き捨てるように叫ぶと、アイラが鋭い視線を投げかける。

「今は、身を潜めることを考えましょう。皆、助からねば意味がありません」

 隠し通路は入り組んでおり、壁を隔てて人の足音が幾つも聴こえる。
 アイラが望む安全な場所とは、いつ火が城に放たれても直ぐに脱出が出来き、かつ皆がゆったりと居られるような広い場所だ。そのような場所ならば、恐らく備蓄もあるだろう。一国も早く傷ついた騎士の手当てをせねばならない、また、極度の緊張状態にあるマローの様子も気がかりなので休ませたい。
 確かに王族の逃げ場として、一時の待機所は近くにあった。しかし、そこには全員が身を隠せない。

「トレベレス様、ベルガー様……何故ですか」

 小さく、誰にも聴こえぬように落胆して名を呼ぶ。アイラは無論、元凶が誰なのかすでに悟っている。つい先程まで、共に語っていたトレベレスを思い描くと胸が痛い。何故、彼らの国の者達が襲い掛かってきたのか。そして、出火の原因は彼らによる放火なのか。
 アイラはようやく足を止めると、一見何もない右の壁を押す。くるり、と壁は回転し、小部屋が出現する。皆をそこへ潜り込ませると、腕をまくって治療の準備にとりかかる。

「さぁ、こちらへ。傷を診せてください」

 薬草を取り出し、出血している騎士達に手当てを施すアイラをミノリは見ていた。何と勇敢で大胆、そして完璧な姫だろう。恐れもなく堂々としている、それに比べて自分達騎士は何も出来ない。恥じて俯いていたが、手伝いくらいなら出来るだろうと思い直した。
 近寄ったミノリに気付いたアイラは、薄っすらと笑みを浮かべて話しかけた。

「ミノリ、水がありますから飲んでおいて。干し肉もあるのです、食べられるときに口にしておいてください」
「は、はい。でも」
「大丈夫です、水は古くはないのです。定期的に交換されていますから、安心してくださいね」
「あ、はい」

 自分も手伝う、と言いたかったのだが、告げられた通りに大人しく先に食事をすることにした。
 無言で動き回るアイラを眺めていた彼らだが、“何故隠し部屋の食料が定期的に交換されていることまで知っているのだろう”という疑問を頭に浮かべた者はいなかった。
 騎士らの簡易な手当てを終えたアイラは、薬湯を飲ませるべく水を沸かし始める。小さなかまどのようなものが用意されており、戸惑うことなくアイラはそれらを扱った。まるで、日常的に使用しているように。

「トモハラ、マローの調子はどうですか?」
「無理もありません、放心状態です」

 部屋で最も座り心地が良さそうなソファにマローを座らせ、ワインを勧めていたトモハラのもとへ、アイラが駆け寄る。
 微量のワインならば身体も温まるだろう、アイラはお湯で割ってマローに差し出した。そして、彼女にしては低い声で口を開く。

「簡単に説明します。現在、ここは城のほぼ中心に位置しています。表と裏は危険と判断し、使用人が出入りする、食物庫からの逃亡を考えています。あそこならば近くに荷物を運ぶだけの荷馬車がありますが、馬車は目立つので馬だけを使います。食物庫までの道程ですが、狭い通路なので簡単には辿りつけないでしょう。頑張ってください。それから、壁を一枚隔てて敵がいるかもしれないので、今後は無言で移動します、物音も厳禁です。私達の部屋からの抜け道など、簡単に露見してしまう、しかしながら通路が入り組んでいるので、容易にこちらへ追いつけない筈。敵はベルガー様及び、トレベレス様と判断いたしました。他の者達の安否も気がかりですが、一先ずこの人数で逃げ切りましょう。……良いでしょうか」

 ミノリ、トモハラ、そしてアイラ付きの騎士であるキルフェは深く頷いた、しかし、女官のエレナは呆けており返事がない。ぶつぶつ、と小声で何かを口走っている。

「あぁ、これだから、呪いの姫君は。災いを、城内に持ち込んで。あぁ、悍ましい、恐ろしい!」

 カッとなったミノリが、エレナの胸倉を掴んだ。怒りで肩を震わしながら、止めるトモハラを振り払って叫んだ。

「アイラ様のせいじゃないだろう!? 今必死にみんなを救おうとしてくださっているのに、その態度は何なんだ!?」
「やめて、ミノリ! 声を出しては気付かれますっ」

 アイラに背後から抱きつかれ、ミノリは我に返った。赤面しながらも悔しそうに俯くと、小声で謝罪する。「も、もうしわけございません」不謹慎だと解っていたが、温かくて柔らかい姫の感触に身体が火照る。
 静まり返る室内に、遠くから聞こえる物音が響く。

「皆、今のうちに軽く口に入れてください。正念場です、ここから暫く歩かねばなりません。ミノリ、キルフェ。ここにある使えそうな道具を一緒に運んでください」
「承知いたしました」

 アイラの指示で薬草を所持し、皆で簡素な食事をした。
 マローは震えながら、アイラに寄り添っている。
 正直腹など空いていないが、食べねば力が持たぬことは知っている。無言で干し肉を噛みながら、物音に怯え、一同はワインを啜り終えた。
 アイラが颯爽と立ち上がり、部屋を見渡す。

「出口は、先程入ってきた場所も含めて三箇所あります」
「え、何処に」
 
 迷うことなく言い放ったアイラに、ミノリは狼狽し室内を見渡す。それらしきものは見当たらない。

「……どちらが安全かしら。どうしよう、判別が出来ない」

 此処へきて、アイラの顔に焦りが浮かぶ。マローを心痛な面持ちで見つめ、唇を噛んだ。そうして、なるべく起伏の少ない道を決断する。

「こちらへ行きます、皆、準備は良いですね?」
「はっ!」

 再びトモハラはマローを背負おうとした、だが。

「例え運よく生き延びたとしても、国の復興は難しい。けれど、マロー姫さえ無事であれば国家は存続出来る。しかしそれには、ラファーガ国の血筋の者が必要ではありませんか? ならば、今此処で!」

 マロー付きの騎士が一人、血走った瞳でそう鋭く叫んだ。トモハラを投げ飛ばしマローを奪い取ると、ソファにそのまま押し倒す。

「何をしている!」

 床に叩きつけられたトモハラだが激昂して立ち上がり、騎士を殴りつけた。

「マロー姫様さえ無事なれば、国家安泰!」
「解っている、だから今から逃げようと」
「だが、お子が居らねばどうにもならぬ! 生きて皆逃げ切れると思うかトモハラ? ラファーガ国の血筋の者がマロー様以外に必要なのだ。解るだろう?」
「だからどうしたと」
「今此処で、誰かの子をマロー様に孕んでいただかねば、ラファーガ国は全滅するっ」
「な、何を馬鹿な事を言ってるんだっ。正気か!?」

 小さく悲鳴を上げたマローに、気が触れているような虚ろな瞳の騎士が覆い被さる。逆上したトモハラが掴みかかったが、思いもよらぬ力で振り払われた。

「失礼、姫様! こうするより方法がないのです」
「おやめなさい」

 騎士の首元に、剣先が突きつけられた。背後からアイラが剣を構えていた、瞬時に室内は静まり返る。騎士の荒い呼吸だけが響く中、剣の光が妙に神々しく光っている。

「先程から、いえ、以前から。呪いだとか繁栄だとか、皆が何を言っているのか気になってました。しかし、今は問い質す時間がありませんので、無事に身を潜めたら訊きます。国家を再建するのに必要なのは指導者と人です、貴方方が必要です。解ってください、逃げる為に、大声を出さないで下さい」

 アイラ姫は本当に破滅と繁栄の予言を知らない、それだけはミノリにもトモハラにも解った。
 項垂れた騎士をトモハラがゆっくりとはがし、マローを救い出す。手を軽く握り、ソファに丁重に座らせるとマローの正面に背を向けて立った。

「恐怖で、混乱するのは解るけれど。姫様を護衛するのが俺達の役目、怖がらせてはいけない、傷つかせてもいけない。俺は、そう思う」

 項垂れている騎士にそう静かに告げたトモハラは、「申し訳ありませんでした」と、マローに詫びた。
 マローは、恐怖に慄き歯を鳴らす程に震えたまま姉を捜して、視線を彷徨わせている。
 静かに剣を下ろしたアイラは、クローゼットから一枚のシーツを取り出した。防寒用だがそれを一気に切り裂き二枚にすると、一枚は自分が被る。もう一枚をマローに被せ、きゅ、と首元で結んだ。

「マロー、逃げる為に汚い格好になりますが我慢してね。私達は目立ちすぎるのかもしれません、こうして身なりを変えましょう」
「うん、わかった」

 大人しく姉の言葉に頷いたマローは、こくん、と首を下げた。アイラに撫でられていると些か落ち着いたようで、うっとりと瞳を閉じる。
 と、そこへ。
 アイラ姫の瞳が、急に険しくなった。右手でしっかりと剣を構え、一方の壁を見据える。唇に指を一本そえ、「喋らないで」という合図を皆に送る。彼らは喉を鳴らし、強張った表情で頷いた。
 騎士も剣を構え、トモハラはマローを隠すように右手を広げる。彼は左利きだ。
 近づく足音に、皆は悲鳴を懸命に堪える。足音は一つだ、アイラは両手で剣を構えた。汗で上手く握れないが、幾度も深呼吸を繰り返し、斬りかかる準備を整える。
 ギ……。
 軋みながら、壁が開いた。先程入ってきた壁ではない、別の壁だった。明るい光が漏れる、そして、女の声。

「……姫様? 姫様ですか?」
「クーリヤ!?」
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登場人物紹介

アサギ(田上 浅葱) 登場時:11歳(小学6年生)

 DESTINYの主人公を務めている、謎多き人物。

 才色兼備かつ人望の厚い、非の打ち所がない美少女。

 勇者に憧れており、異世界へ勇者として旅立つところから、この物語は始まった。


 正体は●●の●●●。

ユキ(松長 友紀) 登場時:11歳(小学6年生)

 アサギの親友。

 大人しくか弱い美少女だが、何故かアサギと一緒に勇者として異世界へ旅立つ羽目になった。

 トモハルに好意を抱いている。

ミノル(門脇 実) 登場時:12歳(小学6年生)

 アサギのことを嫌いだ、と豪語している少年。

 アサギ達と同じく、勇者として異界へ旅立つ羽目になったが、理不尽さに訝しんでいる。

 トモハルとは家が隣り同士の幼馴染にして悪友。

 多方面で問題児。

トモハル(松下 朋玄) 登場時:11歳(小学6年生)

 容姿端麗、成績優秀であり、アサギと対をなすともてはやされている少年。

 同じく異界へ勇者として旅立つ。

 みんなのまとめ役だが、少々態度が高慢ちきでもあったりする。

 なんだかんだでミノルと親しい幼馴染。

ダイキ(中川 大樹) 登場時:11歳(小学6年生)

 剣道が得意な、寡黙な少年。

 人づきあいが苦手なわけではないが、自分から輪の中に入っていくことに遠慮がち。

 同じく、異世界へ勇者として旅立つことになる。

 やたらと長身で目立つことがコンプレックス。

ケンイチ(大石 健一) 登場時:11歳(小学6年生)

 ミノルと親しい可愛らしい少年だが、怒らせると一番怖い。

 同じく異世界へ勇者として旅立つことになった。

 従順だが、意に反することには静かに反論する。

リョウ(三河 亮) 登場時:11歳(小学6年生)

 作品のメインである一人。アサギは「みーちゃん」と呼んでいた。

 アサギと親しく、出会ってからは常に一緒だったが、勇者に選定されず、地球に取り残されてしまった。

 常にアサギの身を案じ、地球で不思議な能力を発揮している。

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