女剣士の戸惑い

文字数 7,453文字

 癇癪玉が破裂しそうなスリザの前で、アイセルは悪びれた様子もなく破顔した。

「暇でしょ、スリザちゃん。一緒に出掛けよう。俺、今日は丁度休みなんだよね」

 スリザはしかめっ面のまま腕を組み、今すぐにでも殴りたい衝動を抑えアイセルを睨み付ける。

「阿呆か貴様は。どうして私がお前と……」
「記念すべきニ人の初逢瀬だよ! さぁ、何処へ行く? 街へ買い物? 湖水浴? あ、一泊二日で海辺に行ってみる? 羽根を伸ばして、人間界に小旅行とか。さぁ、どれが良い?」

 一気に捲くし立て、アイセルは強引に腕を掴んだ。悲鳴を上げるスリザを軽々と肩に乗せ、そのまま運ぶ。

「お、降ろせ! 止めろっ」
「行きたい場所を言ってくれたら、降ろしてあげる」

 通り過ぎる魔族が、担がれているスリザを見て驚きつつも笑いを零している。目が合うと視線を逸らす魔族達に、顔が一気に熱くなる。酷い侮辱だった、恥ずかしさで涙が込み上げる。
 魔族らは、嘲笑したのではない。「微笑ましいことだ」と和やかに笑ったのだが、スリザにはそう見えなかっただけ。不甲斐無い隊長だと噂しているのだとしか思えず、泣きたくなった。これ以上無様な姿を見られなくなかったので、苦し紛れに提案をする。

「わ、私の部屋に」
「わぁお、スリザちゃんのお部屋で逢瀬! いいの、いいの~? 昼間だけど俺、襲っちゃうよ~。部屋に入れてもらえるなら、期待しちゃうよ~?」
「ま、待て待て待て! じゃ、じゃあ食堂で……」
「えー、色気ないなぁ、食堂じゃあつまんないよ。昨夜もいたじゃん。よし、空腹なら街のあそこだね」

 空腹だとは言っていない、とにかく人目のつかない場所に行くか、降ろしてもらえそうな場所へ行きたかっただけだ。面目丸つぶれだと項垂れるスリザは、観念して大人しくなった。公開処刑で首を斬り落とされたほうがマシだと思うほどに、自尊心が抉られた。

「もう、何処でも構わない……」

 常に鋭い一斉を放つスリザの声が、今日は震えている。そんなところも可愛らしいと、アイセルは始終ご機嫌だ。

「御随意に」

 振り払えなくて、担がれたまま街へ出る。色々と自暴自棄になり、この馬鹿で軟派な優男に一時付き合ってみようかと思った。きっと、疲れているのだ。妙なものを飲まされ、思考が狂ってしまったのだと言い聞かせる。

「はい、到着。お待たせしましたお姫様。オレの行きつけの店です」

 ようやく下ろされたスリザは、到着した先を見上げ全身に鳥肌が立つのを感じた。

「な、なんだこの甘ったるい場所は」

 やたらと可愛らしいその場所は、着飾った女子で溢れ返っていた。薔薇がひしめき合う構造を潜り抜けると、愛らしい赤茶色の建物が目に飛び込んで来る。花々が咲き乱れる庭先でお茶を愉しむ女子らもいたが、カランコロン、という懐かしいような音が鳴る扉を開いて中に入った。覚束無い足取りで侵入すると、見た目以上に甘ったるい香りが漂ってる。

「お前……こんな趣味だったのか」
「いや、ここの菓子を好きな奴がいるから」

 マビルのことだ。
 そっけなく伝えたアイセルは窓際の席にスリザを誘導し、座らせた。小高い丘に立つその店の中で、特に湖の煌めきが美しく見える特等席だ。

「う、うぅ」

 落ち着かないとばかりに、スリザは周囲を見渡す。取り巻きの娘らはこういった場所を好むだろうが、免疫がない。彼女らに誘われて、こういった場所へ出向いたこともなかった。純白の机掛けの上には、丸っこい小瓶に桃色の可憐な花が生けてある。普段の食事は大体食堂で花とは無縁、実家は質素堅実を掲げているためこのような小洒落た雰囲気ではなかった。
 狼狽えるスリザに代わり、適当にアイセルが注文した。窓から入り込む心地良い風に髪を靡かせている。
 揺れる髪を見つめながら、横顔は結構良い感じだとスリザは思った。だが、慌てて首を振ると店内を見渡す。女子ばかりかと思えば、恋人同士もいるようだ。
 運ばれてきた蜂蜜漬けのトマトを食べながら、ワインを呑む。華やかな香りのある辛口の白ワインと共に、白身魚の豚バラ肉の燻製巻きと、色様々な円形のパンを愉しんだ。

「もちもちしているな……」

 見た目が華やかなパンに瞳を輝かせ、スリザは夢中で口へと運ぶ。全ての料理から、甘い香りがした。果実を隠し味に使っているようで、それこそ、アサギやホーチミンが似合いそうなものばかり。自分には不釣合いだと思いながらも、非常に美味しいので手が止まらない。甘いものはそこまで好きではないが、辛口ワインと程好く合って、幾らでも食べられた。

「気に入った? 美味しいでしょ?」
「美味い事は認めた。それで、軟派男の色情魔は毎度この店で女を落とすのか?」
「はっはー、残念、違うなぁ。俺自身もこの店の味、好きなんだよねー。最初の目的は違ったんだけど、ココ、信念を貫き通してる雰囲気が好きで通ってる。……焼き菓子を定期的に買わないと怒られるし」

 マビルのことである。
 黙々と食べ続けるニ人だが、スリザがふと視線を周囲に向けると、顔を赤く染めている女子が目に入った。自分の熱心な愛好家がここにもいたのだと思い、つい癖で嫣然と微笑む。城内では、常にこうだった。
 けれど、この店では勝手が違う。
 気づいたアイセルが軽く手を振ると、女子らが一斉に甲高い声を上げて手を振り返した。
 スリザは、唖然としてアイセルを見つめる。しかし、なんら気にせず口元へ料理を運ぶ姿に胸のざわめきを覚え、唇を噛締めた。もう一度、女子達に視線を移した。流行の衣服を身に纏い、皆髪に装飾品を舞わせている今時の娘らだ。
 改めて、スリザは自身の格好を見た。衣服の清潔さは心がけているが、普段から男物を身に纏っている。絹のパリッとしたお堅いシャツに、漆黒で細身のパンツ。装飾品はなく、実に簡素な服装だ。彼女らとは似ても似つかないので、逆に面白くなって苦笑した。
 この場所で、自分だけが紛い物に思えてしまう。

「お前。異性の気を惹くことが出来たんだな、意外だ」
「あー、うん。気を惹くっていうか……。相談相手? 頻繁にここに来てたらさ、恋愛相談されるようになったんだよね」

 見当違いな返答に、スリザは大口を開けた。ちゃらんぽらんなこの男に恋愛相談など、正気の沙汰か!? と思いつつも、ほっと安堵の溜息を吐いた自分もいた。

 ……ダメだ、どうにも情緒不安定過ぎる。

 自分の反応に戸惑いながら、スリザは大口開けてパンを齧った。一人の女子が駆け寄ってきたので、ぼんやりと眺める。

「アイセル、今少し時間ある?」
「えー……。今日は、一世一代の逢引なんだけど。でも、それが解らない君ではないし、どうしたの?」

 パンを押し込み緊張気味に俯いたスリザを瞳の端に入れて、アイセルは女子に向き直った。美しい水色の髪は、念入りに手入れされており毛先まで艶やかだ。その髪に合う深紅の大きな髪飾りがゆらりと揺れる。キラキラとした瞳は睫毛が長く、口元は薄っすらと紅く色づき、艶かしい。純白の長いワンピースがふわりと舞うと、甘い香りがした。
 どう見ても、まごうことなき正統派の美少女だ。

「ごめんね、邪魔して。あのね、上手くいったの! 今度、一緒にお泊り旅行なのよ。その、報告。ありがとうね!」
「おー! おめでとー! やったじゃん」
「本当にありがとうね、アイセル! またね、邪魔してごめんね」
「あーい、お疲れ様」

 お泊りという単語に軽く赤面したスリザは、小さく咽た。水を一気に飲み、火照った顔を冷やす。
 気付いているのかいないのか、アイセルは淡々と説明を始める。

「好きな男がいてね、さっきの子。外見は可愛いけど、相手の男が無骨な奴でさぁ。押しても引いても駄目だったんだよねー」
「しかし、その、直様宿泊など……。破廉恥な」

 今時女子の会話にはついていけないと震えるスリザだが、アイセルはあっけらかんとしている。

「うーん、どうかなぁ。あの男からして、多分彼女に見せたい星空があるから、とかそんだけの理由だと思うよ。星空か朝陽か……スリザちゃんが想像したようなことではないと思うなぁ」

 しれっと、告げたアイセルの足をテーブルの下で踏みつける。ドゴォォォン、と盛大な音が店内に響き全体が揺れた。
 四方で悲鳴が上がり我に返ったスリザは恥じて俯いたが、アイセルは笑いを噛み殺した。肩が小刻みに震える、反応が可愛くて仕方がない。

「食べたら出よう。部屋を予約しておいたから」
「ばっ」

 顔を真っ赤にして言葉を詰まらせたスリザに、アイセルが余裕めいて意地悪く微笑む。

「嘘だよ、そんな時間はなかったよ」
 
 残念そうにそう告げて舌を出したので、スリザは脱力した。確実に、調子を狂わされている。
 忌々しく舌打ちし、それでも出された食事を全て平らげるスリザに、アイセルは始終微笑んだままだった。

「俺、好きだなぁ。スリザちゃんの食べ方」
「ふん、愛らしい女子はこのように綺麗に食べ尽くさないだろう? 残すものなのだろうが、生憎私の食事量は同年代の男と変わらないからな、正直これでは物足りない」
「たくさん食べる女の子のほうが、俺は好きだよ。食べ物を大事にしてるのが分かるし。それに、美味しそうに食べる子が好きだ。ついでに言っとくけど、アサギ様も結構食べるよ。ちまっこいのに、一口一口美味しそうに食べてる。自分が食べられる分をちゃんと解ってるし、食べ終わった後に食事に丁寧に頭下げるんだよねー」

 アサギについて、妙に詳しい。スリザは眉を顰めたが、黙々と食事に手をつけた。

「美味しい? スリザちゃん」
「貴様がいなければ、もっと美味いだろうに」
「なら、今度は一人で来てごらん。羽根を伸ばして、一人で美味しいものを食べてごらん。こうして窓際で、風に当たって。日常を忘れ、ゆったりとした時間を過ごすといいよ」

 こんな可愛らしい店に、一人でなど到底足を運べない。嫌味かとアイセルを睨みつければ、瞳を細めて微笑んでいる。

「スリザちゃんは、高嶺の花だね。美しすぎて、声をかけられないだろうなぁ。絵になるなー」

 鼻で嗤ったスリザは、ワインを口にする。誉められているのか、貶されているのか。どちらにしろ、良い気分ではなかった。

「でも、きっとスリザちゃんは一人では来ないね。結構臆病で寂しがり屋だから。だから、俺を口実にしてまた一緒に来ようね」

 立ち上がったアイセルのその台詞に、顔が強張る。呼吸が乱れ、一瞬止まった。無理やり立ち上がらされ、引き摺られるように腕を掴まれて歩き出す。スリザは放心状態で、動揺の色を隠せなかった。臆病で寂しがり屋だと自覚はあったが、他人から言われる事に酷く脅えていた。自分は、誰よりも屈強で凛々しい。それを演じてきたのに、何故この男に見破られたのだろう。
 周囲の声が耳に入らないほど、焦燥感が高まる。

「あの人が、アイセルの片想いの! とっても綺麗な人ね」
「育ちが良さそうね、でも、肩に力が入りすぎ。アイセルが言う通りの人ね」
「背が高くて細身だなんて、羨ましい! どんな服でも着こなせそうね、かっこいいなぁ」
「きっと、アイセルが彼女の素材を引き出していくのね。素敵!」

 アイセルに連れて行かれる硬直したスリザに、頬を紅潮させた女子達は羨望の眼差しを向けていた。

「私も、あの女性みたいになりたいわ」

 スリザが焦がれる可憐で可愛らしい女子達は、皆そう思って見つめていた。しかし、当の本人には届かない。

「さぁ、腹は満たされたことだし、次は何をしよう。何処か行きたいところは?」
「別に……」

 普段出歩かないスリザには、行きたい場所がない。暇さえあれば剣を振って身体を鍛えてきたので、遊んだ記憶はない。

「そっかぁ、何か気になる場所があったら気兼ねなく言ってね。俺、自分の行きたいトコへ行っちゃうからさ」

 アイセルに手を握られることも、感覚が麻痺して慣れてきた。取り巻きの娘らとは違う、自分と同じゴツゴツした指に、少しだけ安堵する。

「スリザちゃん、あれを見に行こう!」
「頼むから静かにしてくれっ、恥ずかしい。声が大きいっ」

 よく通る声のアイセルが叫ぶたびに、注目を浴びる。スリザは恥ずかしくて、俯いたまま小声で叱った。
 だがアイセルにしてみれば、興奮して当然だ。ようやく意中の女性と手を繋ぎ、二人きりで街へ出られたのだから。自然と声は大きくなり、常に頬が緩んでいる。
 無難だが、露店を見てまわった。アイセルは気に入ったものを見つけたので、腕輪を購入することにした。銀細工で、斬新な形状をしている。

「こういうの好きだなぁ~。お兄さんが作ってんの?」
「ありがとうございます、なかなか理解して貰えなくて売れ行きが悪くて。そう言われると嬉しいですね」

 短剣や弓矢など武器を題材にしたものが多く、力強い感じと嫌味のない銀が調和しており上品だ。人と同じものが嫌いなアイセルにとって、最高の物である。右腕にはめて確かめると、満足して破顔した。
 上機嫌で支払いを済ませるアイセルの隣で、何気なく品を見ていたスリザは渋い顔をした。装飾品など、買ったことがない。

「疲れたね、あそこに座って何か飲む?」

 スリザを座らせ、アイセルは露店でワインを購入した。二人でちびちびと呑みながら、暫し街の風景を見つめる。

「へへっ、イイものが買えたなー」

 アイセルは、余程気に入ったらしく先程購入した腕輪を掲げている。
 街を出歩かないスリザは、新鮮な風景に瞳を細めた。城内とは違う表情の魔族達を眺め、和やかな時間に溜息を零す。

「平和でしょ。それもこれも、アレク様やスリザちゃんが日頃身を削って頑張っているからだよ」

 言いながら何かを差し出したアイセルに、スリザは視線を移した。紙袋が手に握られている。怪訝にそれを受け取ると、細長い指で封を開けた。重量は見た目よりある、逆さまにするとカシャン、と音がして掌に何かが滑り落ちた。

「これは……」

 皮紐の首飾りだ。先程の店で購入したのだろう、アイセルの腕輪と似た造形をしている。

「あげるよ、お揃い」
「どうして私がお前と揃いの装飾品を見につけねばならないのだ」

 そう言ってみたものの、実は嬉しかった。異性からこうして何かを貰う事は、初めてだ。だが、先程の店は男物の様に思える。似合わなくても可愛らしい贈り物がよかったと、多少気落ちする。貰ったところで『こんなものいるかっ!』と罵声を浴びせることが目に見えているのに。

 ……本格的に、心が酷くぐらつく。

 自分の思考に混乱したスリザは、頭を掻き毟った。
 低く呻くスリザに、穏やかにアイセルは微笑んだ。考えていることなど、お見通しだ。優しく首飾りを手に取ると、銀細工の装飾品を指す。

「可愛いでしょ、この薄紅の石。一見剣に見えるけど、実は百合っていう花が題材なんだって。お洒落だよね」

 銀細工自体は厳つい印象を受けるのだが、よく見れば女性向けなのだろう。花の部分に小さな石が埋め込まれており、光っている。スリザは喉を鳴らし、儚げな色の意思をまじまじと見つめた。

「わ、私にこのような色」
「スリザちゃんは、桃色が似合う。真紅も似合うけど、桃色かなぁ」

 反論しそうなスリザから首飾りを抜き取り、優しく首にかける。

「うん、その白いシャツに薄桃が映えていいねぇ!」
「あ……」

 可憐でもなく、厳ついわけでもなく、しっくりくる。このような見立ては初めてで、顏が熱くなった。礼をせねばと思ったが、上手く言葉が出てこない。照れ隠しで、一気にワインを流し込んだ。

「ねぇ、スリザちゃん。時折でいいんだ、こうしてまた出掛けない?」

 極端に可愛らしい女性に憧れるスリザの、その無意味な思考を取り除きたかった。人に羨まれるほど、素晴らしい女性であることを自覚させたかった。スリザから返答はないが、否定もない。アイセルは軽く笑う。

「真面目なスリザちゃんはさ、自分を縛り付けて身動きできないんだ。厳格な父上に期待を篭めて育てられた、親思いの真っ直ぐな女性だからね。歴代魔王の腹心が男だったからといって、そのように振舞わなくてもいいのに」

 何を知った口を、とスリザは鼻で笑った。哀れみなのだろうか、だからこうして今日連れまわしてくれたのだろうか。腹の底が妙にもどかしく、悪態をついた。

「ふん、何も知らぬくせに。実際、女はなめられる。……私がまだ幼き頃、父上が母上に何度も溢していた。『いくら出来た娘でも、息子には敵わない。どうしてお前は男を産み落とさなかった』理不尽な父の言葉を聴いた私は、絶望したよ。女というのはな、男の上に立つには不利な生き物なんだ。私が今の地位を維持するには、努力が必要なのだ」
「スリザちゃんの実力は、十分承知だよ。サイゴンだって心酔してる、異論を唱える魔族なんていない」
「実際、お前とて私を見下しているだろう」
「見下してないよ、寧ろ尊敬するね。自分を押し殺してまで、俺は生きられない。ただ、スリザちゃんが好きなだけだよ」

 何が好きなのか、さっぱり解らない。空になったワインカップを捻り潰し、スリザは足を踏み鳴らした。

「全ての女が男からの軽率な『好き』で心を揺らすと思ったら、大間違いだ。不愉快だ、もう帰る」
「全ての男が女に軽々しく好きと言えると思ったら、大間違いだよ。不愉快だね、連れて行く」
「はぁ!?」

 立ち上がったスリザの腕を強引に掴んで引き寄せたアイセルは、朝の様に肩に担いだ。

「な!? 大馬鹿者、放せっ」

 蹴りを入れようとした、背中に拳を叩き入れようとした。だが、アイセルの手がやんわりと尻を撫でてきたものだから、思わず悲鳴を上げる。

「きゃあぁっ」
「わぁお、可愛い声。はいはい、大人しくしててね」

 自分の口から、女のような妙に甲高い声が出た。驚いて口を塞いだスリザは、くぐもった声を出す。

「ど、何処へ行こうというのだ」
「宿。空いている部屋を探す」
「ま、待て、落ち着けっ」
「暴れると、またお尻触るよ。引き締まったスリザちゃんのお尻は大変魅力的だよ、なんか良い匂いもするし」

 すんすん、と大袈裟にアイセルがスリザの衣服を嗅いだ。
 青冷めたスリザが、盛大に悲鳴を上げる。

「へ、変態!」
「だから、大人しくしてなよ。公衆の面前で俺を変態にさせないでよ」

 もう十分変態だ! と叫びたいのを堪えて、スリザは顔を隠すように頭を腕で覆った。降ろされたら、蹴りを食らわして逃亡しようと機会を窺う。身体がゾワゾワして、触れている部分がどうにももどかしい。
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登場人物紹介

アサギ(田上 浅葱) 登場時:11歳(小学6年生)

 DESTINYの主人公を務めている、謎多き人物。

 才色兼備かつ人望の厚い、非の打ち所がない美少女。

 勇者に憧れており、異世界へ勇者として旅立つところから、この物語は始まった。


 正体は●●の●●●。

ユキ(松長 友紀) 登場時:11歳(小学6年生)

 アサギの親友。

 大人しくか弱い美少女だが、何故かアサギと一緒に勇者として異世界へ旅立つ羽目になった。

 トモハルに好意を抱いている。

ミノル(門脇 実) 登場時:12歳(小学6年生)

 アサギのことを嫌いだ、と豪語している少年。

 アサギ達と同じく、勇者として異界へ旅立つ羽目になったが、理不尽さに訝しんでいる。

 トモハルとは家が隣り同士の幼馴染にして悪友。

 多方面で問題児。

トモハル(松下 朋玄) 登場時:11歳(小学6年生)

 容姿端麗、成績優秀であり、アサギと対をなすともてはやされている少年。

 同じく異界へ勇者として旅立つ。

 みんなのまとめ役だが、少々態度が高慢ちきでもあったりする。

 なんだかんだでミノルと親しい幼馴染。

ダイキ(中川 大樹) 登場時:11歳(小学6年生)

 剣道が得意な、寡黙な少年。

 人づきあいが苦手なわけではないが、自分から輪の中に入っていくことに遠慮がち。

 同じく、異世界へ勇者として旅立つことになる。

 やたらと長身で目立つことがコンプレックス。

ケンイチ(大石 健一) 登場時:11歳(小学6年生)

 ミノルと親しい可愛らしい少年だが、怒らせると一番怖い。

 同じく異世界へ勇者として旅立つことになった。

 従順だが、意に反することには静かに反論する。

リョウ(三河 亮) 登場時:11歳(小学6年生)

 作品のメインである一人。アサギは「みーちゃん」と呼んでいた。

 アサギと親しく、出会ってからは常に一緒だったが、勇者に選定されず、地球に取り残されてしまった。

 常にアサギの身を案じ、地球で不思議な能力を発揮している。

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