犠牲は必要か
文字数 7,523文字
「見たことがあるわ。貴方達、あのお嬢ちゃんの仲間ね? ……面倒、ミラボー様の手を煩わせるならば、廃除する」
ミラボーの水晶球で勇者達を垣間見たエーアは、敵と判断するやいなや火炎の魔法を放った。
悲鳴を上げる勇者達に、後方から魔法組が結界を張った。想像以上の威力に、クラフトの顔が大きく歪む。
アリナが飛び出し渾身の蹴りを繰り出したが、紙一重で避けられた。
「やるじゃん、綺麗なねぇちゃん。ボク、好きだなぁ」
「フフ、有り難う。では、こちらも敬意を表して」
杖を地面に突き立て端正な顔で邪悪に笑ったエーアは、掌を何度も交互に打ち出した。杖から炎が迸り、何個もの球となってアリナに襲い掛かる。
舌打ちしたアリナは避けながら近づこうとするが、数が多過ぎた。悔しいが、後退するしかない。
「酷く強力な魔法使いね……。あちらの限界を待つべきかしら」
「悠長な事、言っていられませんぞぃ」
結界にも限度がある、額に汗を浮かべながらブジャタが苦笑した。飛んでくる魔法が想像以上に重い、魔力の消耗も著しい。
反してエーアは、あれだけ魔法を連発しているにも関わらず、疲労していないように思える。
「剣よ、力を貸してくれないかな。今こそ必要なんだ」
小さく呟いたトモハルは、ミノルが止めるのも聞かずに走り出した。
姿を目に入れた瞬間にアリナとライアンが慌てて飛び出したが、エーアは不敵に微笑むとトモハル目掛けて火炎を投げつける。
掛け声と共に、トモハルはそれを剣で叩き落した。
地面に火炎が転がり落ち、跳ねる。唖然としたエーアは、憎々しげに睨み付け再び火炎を放つ。
だが、トモハルは器用にそれも弾き返した。さながら、野球の様だ。
「あんなこと、出来るんだ」
呟いたケンイチは、意を決して剣を引き抜き加勢すべく走り出す。剣が震え、熱を帯びる。飛んで来た火炎に精一杯剣を振り下ろすと、剣から発生した熱がその火炎を取り込んだ。意外な効果に驚愕するが、感謝した。
「あ、ありがとう、バリィさん……」
霊剣の効力であり、属性が同じことが幸いした。
息を切らせて肩を並べたケンイチとトモハルは、互いに頷き合い、エーアに近寄っていく。
そんな二人をムーンが援護し、火炎に氷柱を放って相殺した。じわじわと距離を縮めていくと、流石にエーアも気分悪そうに顔を歪める。こんな子供に、そんな芸当が出来るとは思っていなかったのだろう。
「普通の剣ではないからな、あれ。流石だ」
ライアンが頼もしそうに呟くと、自身の剣を情けなく見つめる。生憎、変哲もない剣だった。火炎を切るなど、恐らく不可能だろう。
「人間の分際で忌々しい!」
余裕がなくなり声を荒げたエーアに、トモハルが叫ぶ。
「貴女だって人間だろう! もう、やめるんだ。俺は女性である貴女を斬れないっ」
こんな時に何を言い出した、と、皆がトモハルを睨みつける。
エーアも憤慨した、見くびられたと思ったのだろう。病的な興奮で金切り声を上げると、杖を翳して全力で詠唱を始めた。
「巡る鼓動、照らす紅き火、闇夜を切り裂き、灼熱の炎を絶える事無く。我の敵は目の前に、奈落の業火を呼び起こせ!全てを灰に、跡形もなく燃え尽くせっ!」
「ギャアアアアアアアアアア! 最強系火炎魔法っ」
いつぞやの洞窟でマダーニが放った魔法である。だが、魔力が格段上なのでエーアのほうが破壊力が増しているだろう。
火柱が上がり、それが竜巻の如く突き進む。地面を抉り、一直線に突進してくるそれを、慌てて皆は左右に避けた。火柱は、怒涛の勢いで通過する。安堵したのも束の間、突き進んだ火柱が器用に戻ってきた。悲鳴を上げて再び避けるが、それは延々と続く。
「な、なんだこれっ! 追跡されてるっ」
喉の奥で悲鳴を上げたトモハルを一瞥し、コロコロと笑って余裕を取り戻したエーアは、再度詠唱した。
意思を持つような火柱が、二本。近づこうにも、火柱が行く手を阻み逃げ惑うしかない。
本来、エーアにここまでの魔力はなかった。だが、ロシファを捕らえた際に数滴、血液を口に含んだいる。その為、魔力が格段に上がっていたのだ。
狼狽しながら逃げ惑う一行を、愉快そうに見つめると優雅に微笑む。完全に勝ったと、思い込んだ。
「たかが人間風情に、ミラボー様の邪魔立てなど出来るわけがない」
「だから、お姉さんも人間でしょーっ」
流石に極太の火柱は斬れない、弾き返せない。悲鳴を上げてトモハルは必死に剣を振るが、ぼんやりと光ったままだ。まだ、こちらの意志を汲み取ってくれない。
「この剣、どうしたら本格的に発動するんだよ!?」
悲痛な叫び声が森に響き渡る。セントガーディアンには、発動する条件があることを知らない。
その頃、追ってきたアーサー達一行も魔界に到着していた。
勇者達とはまた違った海岸に到着し、どうやって上陸しようかと悩んでいたところへ、たまたま通りかかったオフィーリアが顔を覗かせる。
「不審なものがいたら、攻撃」
水面から顔を出し、大きな口を開けて船目掛けて水を噴き出そうとしたのだが、悪戯っぽい瞳をクルクル動かして、止めた。長い首を傾げ、悲鳴を上げる甲板の一同に近づくと声をかける。
今にも攻撃してきそうな得体の知れない竜にココとリンが飛びかかろうとしたが、アーサーが押し留めた。
「君達は主の敵? 味方? 不審人物?」
「主、とは、どなたでしょうか? 私はアーサー、チュザーレの賢者ですが」
「よくわかんないけど、主は、トビィっていうの」
トビィ!? と叫んだアーサーに、大きくオフィーリアは頷く。思わず駆け寄ると、好意的に腕を伸ばした。
「トビィは仲間です! お手数ですが、そこへ連れて行って貰えませんか」
「仲間なんだ、じゃあ、攻撃しない。ただねぇ、連れて行ってあげたいけど、海から出られないんだよね。ボク、干からびちゃうと生きていけないの」
「な、ならばせめて、その魔界とやらに運んでもらえませんか」
「それくらいなら、できるよ」
目の前で繰り広げられている竜との会話に、皆、唖然と大口を開く。「流石は賢者アーサー」と、感心とも放心とも取れる溜息を吐いて見守った。竜と意思疎通が出来るとは、誰しも知らなかった。
オフィーリアの好意により、その背に飛び移ったアーサー達は、近くの崖へと運んでもらった。礼を言うと、崖へ飛び移りそのまま突き進む。
「全くトビィめ、竜と知り合いだなんて聞いていませんよ!」
「トビィって誰だっけ?」
「いけ好かない、妙にアサギと親しい男です!」
文句を言いつつも、胸が今頃になって不穏に動く。賢者アーサーとて、竜との会話に緊張していた。人間の言葉が通じるとは思っていなかったので、一か八かの賭けだった。
急ぐ仲間達を追いかけながら手足が左右同時に出てしまい、もつれて転びそうになったメアリは、辛うじてセーラに助けられる。
「大丈夫? 無理しちゃだめよ。船に戻ってもいいのよ?」
「ううん、行く。行くの!」
真っ青な顔のメアリに、セーラが優しく声をかける。本来ならば、未熟さ故ここに居てはいけない。彼女を守護する為に、本来の力量を発揮できない者が出てくるであろうことが容易に推測された為、魔王討伐部隊からは外されていた。しかし、駄々をこねてついてきてしまったのだ。
喧騒の中、自分の身は自分で護る事に集中していたメアリ。すべき事は、背負っている剣を勇者に渡す事だった。重すぎる剣は、運搬だけで体力を消耗する。魔法を上手く発動できない魔術師見習いのメアリは、戦闘において役に立たないので、荷物運び役に抜擢された。
本来、彼女の我儘は到底許されないものだ。それはアーサーも重々承知しているのだが、勘が働いて連れてきた。それが吉と出るか、凶と出るか。
倒壊している城を目指して進むと、魔族や魔物の群れに出くわす。しかし、攻撃を仕掛けるどころか一目散に逃げている。訝しげにそれらを素通りしつつ、路脇に置いてあった馬車らしき物体を拝借し、乗り込んだ。馬ではなく魔物が繋がれていたが、万が一攻撃されたら応戦するよう注意して、鞭を振う。
睨まれた気がしたが、ぎこちなくでも走り出したので、アーサーは引き攣った顔で懸命に操作した。
「うへぇ、一生の思い出になりそう……」
「笑って思い出せる未来の為に、頑張りましょう」
ココが魔物の背を見つめつつそう告げると、宥める様にナスカが苦笑した。
その僅かな時間がメアリの休息で、布に包まれた勇者の剣を懸命に抱き締める。強い武器に縋り、勇気を分けてもらおうとした。剣を抱きつつ、妄想に耽る。勇者とは、どんな人物なのか。
賢者アーサー曰く、幼い少年だと。メアリよりも年下だと聞き、そんな少年が必死で戦っているのならば自分も出来るはずだ、と思い込んでの参戦である。正直怖いので躊躇したが、行かねばならない気がした。後悔するほど恐ろしい目に遭うだろう、しかし、無事で帰って来られると自負していた。昔から、勘だけは鋭かった。胸が高鳴る、速まる。魔族など、遠目でしか見たことがなく。使える魔法は、簡単な氷の魔法のみだった。
馬車の隅でカタカタと震えていたメアリに、心配したセーラが覗き込んできた。
「ここに居てもいいのよ?」
「だ、大丈夫……勇者に剣を届けるのは、私の仕事だもの」
引き攣った笑みを浮かべるメアリは、震える声でそう返答する。大丈夫ではないが、そう返答するより他ない。心臓は今にも壊れそうだし、汗が吹き出て止まらない。遠くで爆音が聞こえるたびに、小さく悲鳴を上げて縮こまった。
「いました、勇者達です! ですが敵と接触! 戦闘準備!」
アーサーが怒鳴った。
仲間達が力強い雄叫びを上げる中、メアリは再び剣を紐で身体にくくりつける。
馬車から転がるように飛び出れば、人間が戦っていた。その相手は相当な魔法使いである様子で、見たこともないような破壊力のある魔法を繰り出し、そこらの森を崩壊させている。火柱が意志を持って蠢いており、高度な魔法使いだといやでも解る。
大きく息を飲んで、衝撃的な光景を瞳に入れた。だが、首を傾げる。思い出して、小さく悲鳴を上げた。
「危ない!」
見覚えのある火炎の魔法の、黒煙の中央に立つ人物に鳥肌が立つ。その人物の名を呼ぼうとした瞬間に、誰かに怒鳴られ気付けば地面に倒れこんでいた。
「っ、アーサーの知り合い?」
恐る恐る瞳を開けば、目の前に黒髪の少年がいた。土で顔がすすけていたが、がっしりとした身体つきの大人びた少年が、飛んで来た木の破片を振り払ってくれたらしい。
唖然と、その少年を見上げるメアリ。汚れていてもマントをはためかせ、眉間に皺を寄せて立ち上がり、剣を構えるその姿。妙に眩しく、頼もしく感じられ、不謹慎だが魅入った。
「メアリ、剣! 剣をダイキに渡してください! 勇者だから、彼が勇者だから!」
「え、えぇ!?」
アーサーが防御壁を張りながら、焦燥感に駆られた裏返った声で叫んだので、ようやくメアリの意識が戻る。
見知らぬ土地で、見覚えのある魔法使いが放つ魔法の威力を目の当たりにし、それから助けてもらった少年が……勇者。アーサーから聞いている、勇者の名は“ダイキ”。メアリより年下の十二歳、けれども大人びており、身長もメアリより断然高い。
「あ、あの、ゆ、勇者ダイキ!?」
「え、あ、うん……一応」
金髪の少女に腕を捕まれ、叫ばれたのでダイキは尻込みした。
「こ、これ、勇者の剣なの! あ、あなたのなの!」
布をはらり、とはだけて剣を見せる。
一瞬たじろぎ、ダイキは息を飲んだ。そっと、手が伸びる。
剣を抱えていたメアリの身体が、一瞬大きく震える。まるで、正面から抱き締められるような錯覚に陥った。
「……間に合った、有難う。これで戦える」
メアリの目の前で、力強く剣を握るダイキ。
息を押し殺し、アーサー達も見守った。もし、ダイキが勇者でなければ炎上している。見立てが違っていたならば、直に剣に触れた彼は死ぬ。
見上げたメアリが見たものは、柔らかに微笑み、髪をかき上げ剣を掲げたダイキの姿だった。
その雄々しい姿に、アーサー達も胸を撫で下ろし、間違いではなかったと笑みを浮かべると各々ダイキの傍に駆け寄った。信じてはいたが、不安ではあった。だが、確信した、ダイキが勇者であると。
「はぅっ、ときゅん!」
はにかんだようなダイキの笑顔に、つられてメアリは笑う。大輪の薔薇の花を背負って、勇者は歩いていく。『ここは俺に任せて』、頼もしい背中がそう語っている気がした。
「は、はぁうー……」
メアリは力なく地面に座り込んだ。様々な要因が重なって、胸の鼓動を恋と勘違いしたのか、本当に一目惚れだったのか。例えばもし、助けてくれたのがトモハルだったならば、ミノルだったならば、ケンイチだったならばどうなっていたのかなど、誰も知らず。
「メアリ、メアリ! 貴女の力が必要よ、戻って!」
「ふえ?」
セーラに肩を思い切り揺さ振られ、惚けていたメアリは現実に引き戻される。
まさか、この緊急事態に恋に堕ちるとは。分かりやすいもので、メアリの態度はあからさまだった。ダイキは気付いていないが、今はそれどころではない。若さゆえの過ち、などと言っている場合ではない。
メアリの鼓動を早めた要因が、もう一つ。
「やっぱり……おねぇちゃま!?」
皆が戦っていた相手は、姉だった。
黒煙の中、薄っすらと妖艶な笑みを浮かべて立っていたのは、殺されたと思っていた姉。胸が、再び跳ね上がる。脳内整理が出来ず、混乱して吐き気をもよおした。
弾かれて出た声に驚き、隣に戻って来たダイキはそっと囁く。
「あの人、操られているらしいんだ。妹なら、正気に戻す事が出来るかもしれない。君も、お姉さんも……必ず護る、説得してみてくれないか?」
必ず護る。必ず護る。必ず護る。
メアリの脳内で、連呼される単語。薔薇を一輪咥えて悩ましげに微笑まれた、その凛々しい面立ち。彼女の中で、魔変換が起こった。
「やってみるわ、ダイキ! 私に任せてっ」
ガッ、と勢いよく愛用の杖を握り締め、メアリは颯爽と姉の前に立ちはだかった。
メアリのそんな頼もしい様子を見たのは、皆、初めてであったという。
「連れてきて正解だったみたいですね」
苦笑しつつ呟いたセーラに、心配そうにリンが頷く。
だが、エーアを救い出せるのは実の妹でしかないと、その場に居た全員が思った。
心強い仲間との再会に、ライアンは背を叩くと、軽く経緯を語った。
「魔王ミラボーが単独で反乱を起こしたらしく、魔界の城があのように崩壊したらしい。魔王アレク、魔王ハイ、そしてアサギの生存が現在不明。魔王ミラボーに傅く者達が、このように攻撃を仕掛けてくる。よって、全ての魔族が敵ではないようだ」
「成程、相手にするのは向かってくる者だけでよいと。……ならば、話は早いですね」
状況を把握したアーサー達は、神妙に頷き、メアリとエーアを見守った。
小さな魔法使いは、偉大な魔法使いに杖を向ける。
「おねえちゃま、久し振りです、メアリです!」
胸を張って威勢よく姉の前に立ちはだかったメアリだが、エーアは面倒そうに一瞥し、軽く火炎玉を投げつけた。
「ひぃやぁぁあ!」
盛大な悲鳴を上げて死に物狂いでそれを避けたメアリは、泣きながら姉に杖を向ける。派手な音を立て、足が震えている。
皆は思った、駄目かもしれない、と。
「おねえちゃま! ほらこれ、この杖! 覚えてませんか、我が家に伝わる家宝です! デュオマーキュリー!」
杖を大きく振ってそう叫ぶが、エーアは眉一つ動かすことなく、再び火炎球を投げつける。飛んできたそれに、再び悲鳴を上げてメアリは転げまわった。
「ダイキ、無理だった!」
「え、諦めるの早くない!?」
心配になり駆け寄ったダイキに、メアリは悪びれた様子もなく爽やかにそう言い放った。
流石にダイキも面食らったが、剣を強く握るとメアリを背に隠すようにしてエーアに向き直った。
背後では、メアリがうっとりと大きな背中を見つめている。アーサー達が、頭を抱えていることなど露知らず、完全に舞い上がっている。
「エーアさん、だっけ。ミラボーの味方をしているのは何故だろう。と、訊いたところで洗脳されているのなら、答えないか」
「洗脳などされてはいないわ、可愛らしい勇者の坊や。私は、私の一存でミラボー様に傅いているの」
クスクスと冷たい微笑を浮かべながら、再びエーアは杖を振り翳す。
空中に火炎が舞う、衰えを知らない魔力に皆の血の気が引く。人間ではないように思え、背筋が凍りつく。
「アサギの安否確認を急がねばならないので、エーアは捻じ伏せます。ナスカ、セーラ、行きますよ」
エーアに軽く視線を流したアーサーは、瞳を細めた。淡々と告げると、名を呼ばれた二人は困惑気味に歩み出る。
エーアの存在は、三人共知っている。美しき偉大な魔法使いだが、既に戦死している筈だった。
顔見知りである筈の三人を見ても、エーアは動じなかった。妹にも反応しないのだから、当然か。杖を振り翳し、自分の前に立った三人に得意の火炎の魔法を連打する。一切容赦していないところを見ると、本当に覚えていないのだろう。
アーサーは決断した。救出は不可能だとし、あれはエーアではない別のモノだと認識する。
「賢者の称号を、伊達に戴いているわけではありませんので」
セーラが結界を張り、アーサーとナスカが呼吸を合わせて詠唱に入る。ナスカの風の魔法と、アーサーの炎の魔法を合わせエーアに対抗した。
ここぞとばかりに、マダーニも火炎の魔法で応戦する。ムーンも風の魔法を詠唱し、威力が増すように呼吸を合わせる。波長を合わせねばならないので勇者達では無理だが、腕に覚えのある者達は力を貸した。
流石にエーアの眉が釣り上がる。
忌々しそうに舌打ちをした瞬間を、アーサーは見逃さない。
「畳み掛けます! 多少の犠牲は仕方がありません」
「それは間違ってるよ」
叫んだアーサーに、躊躇せずダイキが言葉を挟んだ。トモハルも同意し、首を横に振る。
しかし、そんな勇者をアーサーは鼻で笑った。
「甘いです、勇者。先に進まねばならないので」
「でも、この子のお姉さんなんだろう? そんな、言い方は」
「我らには、課せられた使命があるのです。魔王ミラボーを倒さねばなりません。一刻の猶予もないのは、御存じでしょう? アサギかエーアか、と訊かれたら。勇者よ、アサギと答えるのでは?」