不穏な場所、飛び交う噂、真実は

文字数 8,353文字

 粘つく感触の潮風が、髪と肌にまとわりつき、気持ちが悪い。
 船旅を続けていたアリナ達は、トビィが不在で意気消沈していた。
 しかし、船員達は進んで戦闘訓練を所望した。
 それでもアリナは生き甲斐を無くし、頬に手を添えて甲板から水面を眺めている。その真横ではサマルトとダイキが剣を交えているが、瞳の端に映しているだけだ。全く血肉踊らず、退屈だった。

「ひ・ま」

 ぼそ、っと小声で呟くとアリナはそのまま倒れ込むように仰向けになり、瞳を閉じて眠りに入る。

「おい、アリナ。指導してくれよ」
「めんどい」
「オレ達だって、力を付けたらアリナと互角になるかもしれないだろ!? 育てようとかしないわけ?」
「ならない。やるだけ無駄、くたびれ儲けの骨折り損」

 ごろ、と甲板を左右に転がりながらアリナは本格的に寝に入った。
 あれから魔物には出くわしていないので、それが更にアリナの退屈さに拍車をかけている。無事に航海が進んでいるので、非常に有難い事なのだが、アリナにはこの平穏が敵だ。
 実際、ダイキとサマルトも自分達がどう成長したのか実戦で試してみたくて、魔物の登場を待ち侘びていたりする。そのくせ、適当に弱い敵を望んでいるから性質が悪い。そんな都合よく行くはずがない。
 ダイキとサマルトは一向に指導してくれないアリナに大きな溜息を吐くと、肩を落として二人で再び黙々と剣を交える。当然真剣ではなく、木刀で打ち合っていた。
 途中、小さな島に立ち寄り水や食料などを供給して、旅は順調に進む。
 ダイキは魔法はサマルトに教わった、故に、サマルトの得意な火炎の呪文ばかりを身につけていく。

「まぁ、生き物は火に弱いから、火炎の魔法で結構有利に運べると思うぜ」

 にかっ、と笑って甲板から海へ向けて火炎の魔法を放ち続ける二人。
 それは主に夜行われた、というのも、明るさで船の航路を測ったり子供達を喜ばせたりとそんな理由である。そして何より空気がその付近だけでも、僅かに暖かくなるからだ。
 満天の星空の下、光り輝く月の光を浴びながら懸命にダイキは魔法を会得している。火炎の魔法ならある程度使いこなすまでに至った、剣の腕も上がっただろう。
 船内の寝心地が悪いベッドにも、質素な食事にも慣れた。

「アサギは、無事かな」

 一人、呟く。
 ダイキにとって、アサギは心の底から憧れの存在だった。
 身長が人一倍高く、それで目立ってしまうダイキは本人の意思とは裏腹に、勝手に推薦で多々役員を押し付けられていた。去年は運動会で五年の団長もこなしたが、その傍らにはアサギが五年副団長としていた。偶然クラスが同じになり、そこで運よく選ばれて一緒になったわけだが、人と付き合うのが苦手なダイキを見越してだったのだろう。アサギが発言し、ダイキに助言を求め、結果的にダイキの発案という形で何度も応援団会に貢献したものだ。その時は対抗チームの五年団長がトモハルだったこともあり、以前から何かと周囲が盛り上げてきたライバル対決を余儀なくされた。
 ただ“容姿が目立つ”という理由だけで、容姿もさることながら、頭脳明晰、スポーツ万能、人付き合いの良いトモハルと常に比較されていた。ダイキには、それが堪らなく嫌だった。

『頑張れ、大樹! 朋玄を叩き潰せ!!』

 当時は、意味不明な声援に、苦笑いするしかなかった。
 トモハルは、友人の数が男女問わず多かった。誰とでもすぐ打ち解ける性格であり、そこまでいけ好かない性格ではない。しかし、やはり優秀すぎて周りから反感を買うこともある。ささやかなものだが。
 最大の原因は、アサギだろうか。自分に自信のあるトモハルは、アサギにも積極的だった。「アサギ、可愛いよね」と普段からさらりと発言していたトモハルを、羨ましく思った男子生徒も少なくは無い。
 何しろ、アサギと並んで同校の優秀人材なのだ、隣に立つのに相応しい。
 その五年の運動会にて、チアガール姿のアサギの隣に立ち、学ランを着ていたトモハルと見事張り合ったダイキ。大声を張り上げて、応援歌を歌った。立派な姿だった、高長身なだけあって、迫力がある。
 が、本人は冷や汗を流しながら懸命に声を出していたのだ、極度の緊張で。本来人前に立つのは苦手なのだ、誰かに代わって欲しかった。

「大丈夫かな? ペースが速いからお水、飲んで」

 僅かな休憩時間にアサギから手渡されたペットボトルを素直に受け取ると、一気に飲み干す。飲んでから気がついた、蓋が開いていたし量も減っていたのだからアサギも飲んだのだろう。
 つまり、これは間接キスだ。
 硬直したダイキだが、アサギは気づいていないのか気にしていないのか心配そうにダイキを見ている。優しく助言をしてきた。

「歌の速度が速まったら、私がダイキの前に出るから、それで少し落としてみたらどうかな?」
「……やってみる」

 緊張すると、どうにもダイキは早口になる。それに気づいていたが自分では上手く調整できなかった、アサギの言葉に救われ、嬉しくて微笑む。
 空のペットボトルを返し、二人は軽く目を合わせて頷くと再び定位置につく。アサギのアドリブで後半の応援は上手く出来た、その時ダイキは思ったのだ。
 どうしてこの子は、他人を良く見ていられるのだろう、と。そして思った、この子にずっと見ていられると、どうなるんだろう、と。
 そこから次第に目で追うようになったダイキだったが、六年になってクラスは離れ離れになった。しかし、不幸中の幸いで隣のクラスだ。
 合同体育もあるので、目立つアサギを目で追う。目で追ううちに気づいた、他人に気を配りすぎで、誰にでも優し過ぎる。そして思った、彼女の視線を独り占めに出来る奴は、誰なんだろうな、と。
 アサギのそんな気遣いが好きなダイキは、漠然と憧れた。それは自分にないもので、出来ないものだからだろう。そして手を差し伸べると嬉しそうに、綺麗な歯を見せて笑うアサギの笑顔がダイキはとても好きになった。
 また二人で応援団をやりたいと思ったが、今年の運動会は組すら違った。そもそも、ダイキとトモハルが同クラスなので、団長は当然の様にトモハルだった。組が同じであったところで、アサギと応援団を行う事は、最初から無理だった。
 そんな小学生最後の運動会を終えたのは、もう一月ほど前だ。その時も、アサギは様々な種目で活躍していた。その姿が美しくて、眩しくて、見入ってしまった。

「早く、助けに行かないと」

 サマルトは先に眠りについたが、ダイキは星空の下で素振りをしている。少し肌寒いが、こうして動いていれば身体も温かくなるものだ。
 気丈なアサギだが、泣いているに違いない。ダイキは唇を噛んだ。彼女を救出する為に、強くなりたくて毎晩懸命に素振りをしている。
 そんな様子を、アリナがひっそりと見て、微笑んでいた。

 暫くして、ついに船が港に到着した。カナリア大陸の港街ドゥルモである。
 ダイキ、アリナ、クラフト、サマルト、ミシアの五人は久し振りの陸の感覚を踏みしめた。揺れない地面は良いが、船に慣れていたらしく、ダイキは真っ直ぐに歩く事が出来ずにいた。

「慣れって、怖いなぁ」

 苦笑しながら、同じ様に四苦八苦しているサマルトとふらつきながら皆について行く。
 まずは、ジェノヴァに滞在組に手紙を出した。クラフトが航海中綴っていた手紙に加えて、無事に到着したこと、情報収集しシポラへと一刻も早く旅立つことを記載した。
 昼前に到着したので、船では食べる事が出来なかった新鮮な野菜を大量に食べたいと皆が思っていたので、そんな店へ足を運んだ。太陽の陽を思いっきり浴びた大地の恵を、貪るように食べる五人はサラダばかり注文してしまった。
 アリナを眺めながら、クラフトは「すぐに肉を食べたがるのだろうなぁ」と肩を竦めている。

「さて、今日はどうしますか?」

 クラフトが腹五分目でようやく皆に声をかける、ミシアだけが顔を上げ、他は無我夢中で食べ物から目を離さない。

「今でしたら、まだ余裕を持って歩けます。一刻も早く状態を把握したいですもの、このまま聞き込みに行きませんこと?」
「ですね。宿の手配だけして、早目に休めるようにし、極限まで動きましょうか。同意見です」

 やはり真剣に食べている三人を尻目に、二人で深く頷いて会話は終了である。
 ともかく街はジェノヴァまでとは言わないが広い、重たい腰を上げて散策開始である。三人の腹は幾分か満たされたようで、満足そうに立ち上がってくれた。
 二組に別れる事にし、クラフトとアリナ、ダイキとサマルトとミシアという構成をとった。軽くアリナとクラフトは目配せする、ミシアの注意を逸らして、二人で会話をする絶好の機会だ。
 五人は今夜の宿の前で別れた、その宿は丁度街の中心に位置するので、東西に分けて聞き込みをする。反対方向に歩き出し、夕刻には戻る事、急な体調の変化で身体が悲鳴をあげたら、すぐに戻る事を約束する。

「これなら、ミシア殿に会話を聞かれることもないでしょうから」
「ん。さぁて、何から行こうか」

 大きく伸びをしてアリナは肩を鳴らした、二人とも歩きながらの会話である。何処かに座って、綿密に語りたいのも山々だが“万が一”が怖い。

「トビィ殿が去られてから、ミシア殿と何か?」
「あー。ほとんどボク、気が抜けていたからなー。稀に鋭い視線を感じることはあったけど、それくらい」
「ならば、良いのですが」
「窮屈でさ、あんまり部屋に居なかったし」
「こちらの掴んだ情報では、船員達にサボリ癖の出る者が増えたようでした」
「それに、ミシアが関わっている確率は?」
「0ではない、と思っております」
「ふん、そーか」

 爪を噛み、アリナは忌々しそうに舌打をする。

「じゃ、ともかく今後も要監視ってとこかな」
「そうですね。何か異常があればほんの些細な事で構わないので、至急言って下さいよ」

 この話は一旦保留だ。二人は街中から外れて、静まり返る路地へと向かう。耳を澄ませながら、正面を見つつ左右に気を配りながら歩き回る。
 思いの外、人が居ない。
 初日で情報が掴めるようならば、大事にはなっていないだろう。その日は、二人して何も得ずに宿へ戻る事になった。途中の屋台で羊の炭焼きを何本か購入したアリナは、クラフトの予想通り貪っている。

 その頃、もう一組の三人は、ミシアの案内で街を彷徨っていた。「ここへ来た事がある」というミシアに任せて、ついていく。

「母の死と繋がるかもしれないシポラ、一刻も早く情報を」

 焦るようにミシアは早足で人混みをすり抜けていく、二人は追いかけるのに必死だ。
 三人は教会へ立ち寄った、丁度神父の話が聞けるらしく、大人しく席に着く。ダイキは教会になど来た事が無かったので、緊張気味でサマルトの隣に腰掛けた。
 サマルトの惑星は女神エアリーを崇拝しているが、惑星クレオは男神クレオを崇拝している、教会の正面に掲げてある銅像に違和感を感じていた。ダイキはキリストやマリア像なら解るが、目の前の鳳凰のような鳥に違和感を感じている。教会といえば、キリストと天使のイメージがあった。
 二人は場違いな気がして、身体を揺する。落ち着かない。
 パイプオルガンの荘厳な曲、子供達の聖歌、ダイキは疲労も手伝って無意識で眠りに入ろうとしていた。心地良すぎて、睡魔に抗えない。ガクガク揺れるダイキに苦笑いするサマルトだが、同じ様に欠伸をして眠りに入ろうとしていた。

「子供達が。子供達がシポラから戻りますようにと……」

 背後からそう聞こえたので三人は一斉に振り返った、目は覚めた。ぎょっとして身を仰け反らせた人物の他に、懸命に胸の前で手を組み、俯いてぶつぶつと祈っている中年の女性がいる。三人は気づかないその女性を観察するように見ると、その場は大人しく聖歌を聴いていた。
 いきなりその単語を聴くことが出来るとは思わなかったので、聖歌など聴いている様で聴いていない。
 ミサに該当するであろうものが終わり、教会から人々が徐々に立ち去る中で、三人は先程の女性を捜す。確実に『シポラ』と言っていた、聞き間違いではない。
 ダイキが見つけ、慌てて駆け寄ると後ろから声をかけた。しかし、振り返られて言葉に詰まる。何を言い出せばいいのか、全く解らない。困惑しているとミシアが駆けつけ、代わりに前に進み出ると優しく微笑みかけて口を開いた。

「すみません、少しお聞きしたいことがあります。シポラで何かあったのですか?」

 その問いに、女性は身体を引き攣らせると、小さな悲鳴を上げて逃げようとした。思わずサマルトが腕を広げて回り込み、逃げ道を遮断する。それに更に悲鳴を上げる女性に、三人は狼狽する。これでは、こちらが悪党に見えてしまう。周囲の視線が気になるので危害は加えないと必死に説得し、四人で教会裏の木々の中へ移動した。
 不審な三人に女性は狼狽しているが、同姓のミシアには緊張を解き始めていた。 

「私の母が、シポラ近辺で殺害された可能性があります。ジェノヴァから来たのですが不穏な噂も耳にしました。お願いします、何か知っている事があれば教えていただきたいのです」

 その言葉にようやく警戒心を解いたのか、硬直気味の身体を大きく揺すって呼吸すると、周囲を気にしながら口を開いてくれた。

「知るも何も、私が知りたい。息子達が突如シポラへ行くと言い出して、半年帰ってこないんだ。その間、手紙も何も無い、不安で不安で。こっちでも妙な噂を聞くだろ?」

 言葉を慎重に選びながら答えている気もする女性に、ミシア達も不安に駆られる。

「息子さん達の動機、全く不明なのでしょうか?」
「あぁ、特に変わった様子は無かったんだ。毎日友達と遊ぶのが日課で」
「その友達は、今何処に?」
「一緒に、シポラへ」

 一同沈黙。
 友達に話が聴けたら、と思ったがそれも無理なようだ。しかし、そうなるとその友達と遊んでいた時間に何かがあったとしか、思えない。
 シポラへ行きたいと思った、その原因はなんなのか。

「幾つなんですか、息子さん」

 ダイキが控え目に問うと、落胆して返答。

「あなたと同じくらいですよ。十五歳と十三歳です」

 自分と同じ年頃だと、ダイキは戦慄する。一体何があったのか。

「アサギが言ってた。マインドコントロールをすでにされていたのかもしれない」

 ぽつり、とダイキが呟いて足元の草花を見つめる、女性が不思議そうに首を傾げた。単語の意味が解らなかったからだ。慌てて、軽く説明をする。

「息子さん達友達の輪の中に、何者かが接触して、“シポラへ行かなければならない”という情報を植えつけるんです。強制されたわけでなく、自分の意思で選択したと思わせて、あらかじめ決められた結論へと誘導する事です。誰にでも可能なわけではありません、言葉巧みな人物や、威厳があったり心酔している人物が、慕ってきた人たちに施す感じです」

 女性は軽く頷いた、しかし整理できないのか理解できない様子である。

「人を集めるのが目的かしら? 何がしたいのか、そこが重要ですわね」

 ミシアがダイキの肩に手を置く、神妙に頷くと今日はここで岐路につくことにした。深く女性にお辞儀をし、無言で宿へと戻ればすでにアリナとクラフトは戻ってきていた。夕食前に、一室で会話だ。宿の食堂では、とても話すことなど出来ない。
 ミシアは、シポラへと消えていった少年達がいる事を報告する。恐らく、女性の息子達以外にも大勢いるのだろう。顔を顰めて聴いているアリナ、瞳を伏せているクラフト。やがて、重苦しい沈黙の後、クラフトがようやく口を開いた。

「情報を集めるか、このまま向かうか、ですが。いかがします?」

 クラフトが全員を見つめながら、静かに返答を待った。情報収集に越した事はない、重要な事だろう。
 しかし、情報はあくまで噂の一環に過ぎない場合もある、それくらいならば時間が勿体無いので直に目で確かめるほうが良いかもしれない。

「ボクは面倒だから突撃に一票。すでに被害は出てるんだ、何が行われているか見極めるべきだと思うよ」
「私は情報収集に一票を。あまりに危険すぎます、せめてあと一週間と期限を決めて、ではいかがかしら」

 意見がいきなり割れた、二人がムッとした顔つきで微かに睨みを効かせている。気まずそうにサマルトが口を挟んだ、かなり控え目なのは二人の間で飛散している火花が怖いからだ。小声で、一応意見を述べる。

「俺は突撃かな。いてもたってもいられない性質なんだ」

 そうなると、ダイキに視線が集中した。引き攣った笑顔で、頭を掻きながらダイキは静かに口を開いた。あぁ、こんな時アサギが居たらなんて言うだろうか、と考えながら。

「お、俺は。情報収集が良いと思うんだ、どんな情報でもあればありがたい。遠い地のジェノヴァであれだけの情報を得られたんだし、近いここなら別の確信についた情報が出てもいいと思う。でも、個人的な意見だと突撃。だって、どう考えたって変な場所だし」

 そして視線はクラフトへ、と移った。
 皆の視線を受けながら苦笑いして四人を見比べる、双方の言い分はどちらも間違ってはいない。

「同時にこなすとして、また二組に別れますか? ただし、シポラ組は無茶をせずに偵察のみ、七日経過しても戻らぬなら二班が突撃」

 戦力分散は危険を伴う、しかし、偵察ならば少人数のほうが好都合だ。
 首を捻って考えていたところへ、夕食の知らせである。地名を出さない事を徹底し、食事中も会話を続ける事にした。

「二人は七日間、ここに滞在して情報収集後、出立。三人は明日準備が整い次第シポラへ、深入りせずに周辺で様子見。現地で合流後、その時得た情報によって行動を決める……で、どうだろう」

 アリナの意見に、皆が同意する。後は組み分けが問題だ。
 食後の紅茶を啜りながら、クラフトが案を出した。
 シポラ行きは感情に左右されてはいけない、何かを見ても行動せずに後から来る二人を待たねばならない。ゆえに、“情報”を優先したミシア、ダイキ、クラフトが。
 そして突撃を優先したアリナとサマルトが、街に残る形になった。残り組みの暴走が些か気になるが、攻守のバランスも比較的妥当である。
 正直、クラフトはアリナと共にいたいのだが、ミシアと誰かを単独で何処かへ行かせるのは気が引けた。その間、アリナからサマルトに軽く説明をしてもらうつもりである。最も都合が良い組が出来たと、クラフトは思っていた。
 シポラ行きの攻撃の主がダイキとなるが、回復、攻撃、防御補助の玄人であるミシアとクラフトがつくので心強い。また、滞在組みはアリナが抜群の戦闘力を誇り、回復、攻撃魔法をこなすサマルトとならば何かあっても切り抜けられるだろう。
 いや、切り抜けねばならないのだ、どちらも。五人は早々に眠りに入る。
 自分にのしかかってきた期待が、ダイキを震わせた。苦手なのだ、責任感というものが。ベッドの中で唇を噛み締める、震える手を強引にベッドに押し付けて無理やり瞳を閉じていた。最も親しいサマルトが不在な事が、ダイキの心に揺さぶりをかけてしまった。離れるだなんて、思ってもみなかった。
 アサギを、ミノルを、トモハルを、ケンイチを、ユキを思い出す。

「頑張ろう。船で練習した、いけるはずだ」

 何度もその言葉を繰り返しながら、ダイキは朝を迎えた。いつしか眠りにはついていたので、気分良く目は覚めた。顔を叩いて、気合を入れる。冷たい水で顔を洗うと、腹いっぱい朝食を詰め込む。
 剣を装備する、颯爽と街を歩く。門でアリナとサマルトが見送ってくれたので、それに大きく手を振ると三人は街から外へと踏み出した。
 向かう先は、青空の先、雲で覆われた不穏な場所シポラ。
 何人もの少年がそこへ向かって戻らぬ、邪教徒の巣窟であると教えられた場所だ。
 そしてまた、マダーニとミシアの母の死に関与しているらしい因縁の場所。

「行こう、クラフト、ミシアさん」

 ダイキの決意を宿した瞳と重い声に、二人は喜びを頬に浮かべた。一回り大きくなった勇者を眩しそうに見つめ、返答する。

「行きましょう、惑星チュザーレの勇者ダイキ」
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登場人物紹介

アサギ(田上 浅葱) 登場時:11歳(小学6年生)

 DESTINYの主人公を務めている、謎多き人物。

 才色兼備かつ人望の厚い、非の打ち所がない美少女。

 勇者に憧れており、異世界へ勇者として旅立つところから、この物語は始まった。


 正体は●●の●●●。

ユキ(松長 友紀) 登場時:11歳(小学6年生)

 アサギの親友。

 大人しくか弱い美少女だが、何故かアサギと一緒に勇者として異世界へ旅立つ羽目になった。

 トモハルに好意を抱いている。

ミノル(門脇 実) 登場時:12歳(小学6年生)

 アサギのことを嫌いだ、と豪語している少年。

 アサギ達と同じく、勇者として異界へ旅立つ羽目になったが、理不尽さに訝しんでいる。

 トモハルとは家が隣り同士の幼馴染にして悪友。

 多方面で問題児。

トモハル(松下 朋玄) 登場時:11歳(小学6年生)

 容姿端麗、成績優秀であり、アサギと対をなすともてはやされている少年。

 同じく異界へ勇者として旅立つ。

 みんなのまとめ役だが、少々態度が高慢ちきでもあったりする。

 なんだかんだでミノルと親しい幼馴染。

ダイキ(中川 大樹) 登場時:11歳(小学6年生)

 剣道が得意な、寡黙な少年。

 人づきあいが苦手なわけではないが、自分から輪の中に入っていくことに遠慮がち。

 同じく、異世界へ勇者として旅立つことになる。

 やたらと長身で目立つことがコンプレックス。

ケンイチ(大石 健一) 登場時:11歳(小学6年生)

 ミノルと親しい可愛らしい少年だが、怒らせると一番怖い。

 同じく異世界へ勇者として旅立つことになった。

 従順だが、意に反することには静かに反論する。

リョウ(三河 亮) 登場時:11歳(小学6年生)

 作品のメインである一人。アサギは「みーちゃん」と呼んでいた。

 アサギと親しく、出会ってからは常に一緒だったが、勇者に選定されず、地球に取り残されてしまった。

 常にアサギの身を案じ、地球で不思議な能力を発揮している。

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