夢の続きは、何処で見る

文字数 1,433文字

 未練が糸を引いて切れない、とでも言うように語尾を掠れさせ、サーラは話を止めた。

「これがその宝剣です。この廃墟はその城の成れの果て。私はサーラ、その歴史に埋もれた魔族です。そんな、辛気臭いお話でした」

 差し出された剣を手に取り、トビィは瞳を細める。低く呻いてそれをサーラへと返した、確かに相当な魔力を秘めている。トビィの剣ほどではないが、それでも滅多にお目にかかれない代物だ。
 それ以後使っていないのだろう、しかし、毎晩研いでいるのだろう。装飾品の様に、美しい剣だ。
 サーラの横顔を見つめながら、トビィは煎れてくれた珈琲を啜る。苦い渋みが、彼の心情と重なる。悲しい事件の引き金は、人間が抱いたサーラへの嫉妬だが、元凶はサーラ自身だ。それを責めて悔いているのだろうと、唇を噛む。気の毒だとは思ったが、励ます、などしたくはないし、ガラでもない。本人も気付いているだろうが、国民は誰しもサーラを責めてはいないだろう。他人に言われて目を醒ますより、自分で気付いて欲しい。一人生き残った意味を、苦悶でも考えねばならないと。
 しかし話を聞いてトビィには引っかかる事が、多々あった。
 知っている話な気がして仕方がない、魔族は長命なので、随分と昔のことだろう。トビィが知る筈もない。もしかすると、マドリード辺りに聞いたことがあるのかもしれない、とトビィは思い直す。
 そして、気になるといえば話に出た名前だ。
 オークス……先日、ジェノヴァで聞いた名である。

「勇者が出現した、と聞きました。アンリであれば良いのですが」

 自嘲気味にそう言うサーラに、トビィは瞳を伏せる。トビィは、勇者を知っている。アサギ、という名の少女が勇者だ、アンリではない。しかし、アンリとアサギが似ている気がして腑に落ちない。顔は知らない、名前しか知らない。それでも、何故か胸騒ぎがする。
 互いに、静かに食後の珈琲を啜りながら、物思いにふけるしかなかった。 
 空の汚れを全て洗い流してくれたような晴天が、頭上に広がっている。
 遅れを取り戻すべく、トビィは軽くサーラに別れを告げて立ち上がり、傍らに大人しく控えていたクレシダに飛び乗る。後ろ髪引かれる思いにも似て、聞きたいことがあったのだが先を急ぐしかない。
 アサギを、捜さねばならない。

「では、お気をつけて。御武運を」
「……あぁ」

 深く頭を下げて見送るサーラに片手を上げて、トビィは旅立った。
 離れて行くトビィを見送りながら、サーラはネックレスを外して中を覗く。もう何度も見た絵画だ、色彩は古めかしくなってきたが、今でも姫の肖像画は美しい。

「アンリ。そういえば君が探していた夢の中の人は、トビィさんのような紫銀の髪だったね」

 姫は、以前サーラにこう告げていた。『捜したい人が居るから、一緒に来て欲しい』と。紫銀の髪が綺麗な、夢に出てくる王子様を捜しに行きたいと言っていた。
 力なく笑って、ネックレスを閉じる。
 もし。
 そのネックレスの中身を、トビィが見ていたのならば。
 二人は、気がついたのだ。アサギこそ、アンリの転生で間違いないと。アンリの姿は、アサギそのものであるから。
 ネックレスの中で笑っている姫は、まさしくアサギ。緑の髪と瞳の、アサギ。
 勇者になりたいと願った、この地に生まれた小国の姫。
 紛れもなく、勇者として今、この惑星に舞い降りている。
 それは、地球からやってきた娘。
 
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登場人物紹介

アサギ(田上 浅葱) 登場時:11歳(小学6年生)

 DESTINYの主人公を務めている、謎多き人物。

 才色兼備かつ人望の厚い、非の打ち所がない美少女。

 勇者に憧れており、異世界へ勇者として旅立つところから、この物語は始まった。


 正体は●●の●●●。

ユキ(松長 友紀) 登場時:11歳(小学6年生)

 アサギの親友。

 大人しくか弱い美少女だが、何故かアサギと一緒に勇者として異世界へ旅立つ羽目になった。

 トモハルに好意を抱いている。

ミノル(門脇 実) 登場時:12歳(小学6年生)

 アサギのことを嫌いだ、と豪語している少年。

 アサギ達と同じく、勇者として異界へ旅立つ羽目になったが、理不尽さに訝しんでいる。

 トモハルとは家が隣り同士の幼馴染にして悪友。

 多方面で問題児。

トモハル(松下 朋玄) 登場時:11歳(小学6年生)

 容姿端麗、成績優秀であり、アサギと対をなすともてはやされている少年。

 同じく異界へ勇者として旅立つ。

 みんなのまとめ役だが、少々態度が高慢ちきでもあったりする。

 なんだかんだでミノルと親しい幼馴染。

ダイキ(中川 大樹) 登場時:11歳(小学6年生)

 剣道が得意な、寡黙な少年。

 人づきあいが苦手なわけではないが、自分から輪の中に入っていくことに遠慮がち。

 同じく、異世界へ勇者として旅立つことになる。

 やたらと長身で目立つことがコンプレックス。

ケンイチ(大石 健一) 登場時:11歳(小学6年生)

 ミノルと親しい可愛らしい少年だが、怒らせると一番怖い。

 同じく異世界へ勇者として旅立つことになった。

 従順だが、意に反することには静かに反論する。

リョウ(三河 亮) 登場時:11歳(小学6年生)

 作品のメインである一人。アサギは「みーちゃん」と呼んでいた。

 アサギと親しく、出会ってからは常に一緒だったが、勇者に選定されず、地球に取り残されてしまった。

 常にアサギの身を案じ、地球で不思議な能力を発揮している。

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