第19話朝、麗は妹蘭に怒られ、泣かれる。

文字数 1,065文字

午前7時、やかましい目覚まし時計の音で、麗は目を覚ました。
「汗臭い」
とにかく怖い夢を見たことは、覚えている。
それで汗をかいたのだと思う。

「仕方ないか」
麗は、シャワーを浴びて、汗を流す。
昨日の怖い夢が、まだ頭に残っている。

「また、あの夢か・・・気持ちが悪い」
「しばらく見ていなかったけれど、何故、急に?」
怖ろしく感じるけれど、考えること自体を、日常生活に戻ることで、やっと紛らわす。

シャワーで汗を流し終えると、少し寒い。
「昼の珈琲くらいは淹れるか」
普段から朝は食欲がないのに加えて、怖い夢見のため、全く食欲がない。
いや、麗の家には、そもそも食べ物はない。
口に入れるものは、水と珈琲豆以外には、何もない。

時計を見ると、午前7時半を過ぎたところ。
珈琲を淹れ終えた麗が、着替えを始めていると、スマホが鳴った。
「誰だ、こんな忙しい時間に」
麗が機嫌を害して、スマホを手にすると、表示は「蘭」。
麗の二歳下の妹からだった。

麗は、ますます面倒で機嫌悪い。
「何だ?蘭、この忙しい時に」

しかし、蘭も機嫌が悪い。
「うるさい!この馬鹿兄!」

麗は意味不明。
「自分から電話をかけておいて、うるさいって何だ」
口調もきつくなる。

蘭も負けてはいない。
「馬鹿だから馬鹿って言ったの!」
「意味わかるでしょ?」
「やましいことあるでしょ?」

麗は、ますますヘキエキする。
とにかく蘭が怒ると、かなり長い。
「だから、何だって聞いている、要件は何?」

蘭は、それでまた怒る。
「もーーーー!この馬鹿!」
「私だって、忙しいから言うわよ!この馬鹿兄!」
「桃香ちゃんまで泣かせたの?ちょっと前は由美ちゃん!」
「もーーーー!どうして、そうなの?」
「どうして女を泣かせる?」
「泣きつかれて困るの!こっちは!」
「どうして、そう繊細さに欠けるわけ?」

麗は、言葉に詰まった。
とても、切り返すタイミングもないほど、蘭の文句は機関銃並み。

蘭は、まだ怒る。
「そ・れ・か・ら!この馬鹿兄!」
「一日一食生活って何事?」
「冷蔵庫に水と珈琲豆しかない?」
「茶碗を箱から出していない?私がプレゼントしたのに!」
「私なんて、妹なんて、どうだっていいわけ?」
「あーーーー!もう!こんな馬鹿兄、大っ嫌い!」
蘭は、最後には泣き声になる。
「いい?麗兄ちゃん、せめて食べてね」
「どこかで死んでないでね、私を一人にしないでよ、約束して!」

麗は、これには飛躍と思ったけれど、大学に行く時間も迫っている。
だから「うん」と言うしかない。
蘭は、それでやっと電話を切った。

しかし、麗には朝食を食べるような時間もなく、そもそも食べるものがない。
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