第462話パーティー前夜、悩む蘭に麗から電話

文字数 1,224文字

高輪の家での集まりを翌日にして、蘭は寝つかれない。
麗の近くに、できれば隣に座りたい、それが浮かんで来ては、悩む。

「隣に座りたい」
「でも、その時点で泣いちゃうかも」
「葵さんも、花園美幸さんもいて、可奈子さんもいて、身分が違うし」
「わきまえがないって、恥ずかしいことになる」
「呆れられるのも困る」
「桃香ちゃんと美里ちゃんの三人の中にいるしかないかな」
「でも、隣に座りたい、麗様の体温を感じたい」
「本当は、やさしい麗ちゃんだもの」

桃香からは、麗の情報をいろいろ聞いている。
「4月の中旬、大学の先生二人と三井さんという女の人と、偶然来た」
「麗様は、誘われただけと思う」
「本当に青白くてガリガリになっていた」
「三井さんが、麗様に迫ったけれど、麗様は完全スルー」
「その後、それにショックを受けた三井さんに追いかけられて、一度は包丁を持って追いかけられた」
「三井さんは、結局自滅、田舎に帰った」

「山本さんって、麗様が欠食で倒れた時に面倒を見てくれた女性とお礼の食事」
「大学の図書館の人みたい、麗様は珍しくやわらかな顔で話されていた」
「上品できれいな大人女性、麗様好みかな、少し嫉妬した」

「昨晩は、葵さんと来て、洋食風湯葉料理を完食した」
「みんなの将来まで、いろいろと考えてくれているよ」
「能面は変わらないけれど、裏切らない、だから好きなんだけど」

蘭は、いかにも「麗らしい」と思う。
宗雄の暴言、暴力に耐えきった。
蘭の不始末までかばって、酷い目にあった。
「でも、私を責めることはなかった」
「時々、叱って欲しいと思ったけれど」
「やさしいから、それに甘えて」
「酷いことを言ったこともある、麗様は黙っちゃうけど」
「それで、後で反省する、悪かったなあって」

蘭は、やはり麗と手を握りたいと思う。
「泣いて止まらなくなっても、握りたい」
「また、ハンカチもらえるかな、九条麗の刺繍入りの」
「みんなの前で恥ずかしい・・・でも・・・麗様・・・麗ちゃんの手が懐かしいよ」
「小さな頃、田舎の道端で転んで、痛くて」
「大泣きになったら、手を握ってくれて・・・」
「大丈夫か?痛くないか?って、やさしくて」

「でも・・・」

蘭は、あふれる涙を、麗のハンカチでぬぐった。

「麗様は・・・本当のおばあ様とお逢いになって」
「本当のお母様の部屋で眠って」
「墓参りをなされて」
「もう、私とは、家族ではないってことだよ」
「ただ、一緒に暮らしただけ」


蘭がいろいろ考えて、沈み込んでいると、麗から電話がかかって来た。
「蘭、明日、頼みがある」

蘭は、ドキドキして、声が裏返る。
「はい・・・麗様、何なりと」
麗は、プッと笑い声。
「二人だけの時に、そんな言い方するな」

蘭は、身体が震え、涙も出て来る。
「あ・・・うん・・・」


「ピアノを弾くから、何か歌って」
「桃香と美里と相談してもいい」

「泣いちゃうかも、うれしくて」

麗の声はやさしい。
「パーティーには音楽がつきもの、何とかして」

蘭は「はい!まかせて!」と、元気を取り戻している。
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