第316話麗は大学に登校、様々な「お誘い」を受ける。

文字数 1,726文字

大学に登校後、麗は葵に逢う前に、図書館に出向いた。
目的は、司書の山本由紀子に、今日は神保町の山本書店にて、西洋史の大家佐藤先生の話を聴くことができる確認と感謝の意を伝えること。

麗が、その意を告げると、山本由紀子はいつものやさしい笑顔。
「うん、いいよ、そんな丁寧に、親父がそうしたかったの」
「小難しい古書店の親父だけど、どうしても麗君を佐藤先生に紹介したかったみたい」
「そもそも本学の教授でもあるし、三年生か四年生になって、機会があれば授業を受けることもできるかな」

麗は、山本由紀子の前では、本当に自然な顔になる。
「山本さんのお顔も見たかったので」

つい、本音を言うけれど、山本由紀子は、軽く受け流す。
「あらあら、こんなおばさんを持ち上げないこと」
「それより、欠食麗君は、少しだけふっくらしたかな?」
「あれから反省して、食べるようになったの?」

麗は、答えに困る。
とても「九条家後継で、今はお世話係までついている」などとは言いたくない。
そのため、「はい、少々反省いたしまして」と、当たり障りのない答え。

山本由紀子は、そんな麗の手の甲をツンとつつく。
「ねえ、来週のいずれかの夜、連絡するから」
「こんなおばさんだけど、デートして欲しいの」
「ゆっくりと話をしたくて」

麗は、山本由紀子の指が、手の甲に触れた瞬間から、身体も心も自由がない。
「わかりました、ご連絡お待ちしています」
その麗の顔が面白いのか、山本由紀子は笑う。
「能面の麗君も、顔を赤くするの?」
「でも、話を受けてくれて、うれしい」

麗と山本由紀子の話は、そんな様子で終わった。
そして図書館を出て、スマホを確認すると、「源氏物語の教室で待っています」との、葵のメッセージ。

麗は、ここで思い出した。
「そういえば、高橋先生との共同執筆の話もあった」
「高橋佐保にも、九条財団への転職を勧めてあった、その確認もしないと」

麗が、そんな思いで源氏物語の教室に出向くと、葵が入り口まで小走りに来て出迎える。
麗は、葵をなだめた。
「転ぶと困ります、何も走らなくても」
葵は、麗の手首を軽くつかむ。
「いえ、学内では確保したくて」
麗は、少々面倒に思うけれど、そのまま手首をつかまれたまま、席に座る。

そして、再び葵をなだめるように、連絡事項を告げる。
「昨晩、お話した式子内親王様のブログは、京都九条家にも確認をしてもらいました」
「了承を受けましたので、いつでも送ることができる状態になっています」
葵は、その連絡で、肩がビクンと動く。
「あ・・・ありがとうございます・・・早く読みたくて」
ただ、なかなか手首を離さない。

さて、そんな状態の時に、源氏物語の講師高橋麻央が教室に入って来た。
そして麗に、少し目配せをして、早速講義を始める。

内容は、源氏物語と白楽天の関係が中心。
玄宗皇帝と楊貴妃の関係を詩とした白楽天の長恨歌、雨夜の品定めでは同じく白楽天の漢詩が下敷きになっていること、光源氏が須磨に退去する際にも白楽天の詩集は欠かせなかったなど、いつもながらのテキパキとした口調で説明を続ける。

ただ、麗が気になったのは、話の展開のたびに、高橋麻央が麗の表情を見てくること。
麗は、これでは居眠りもできない。

葵は、そんな麗の必死に眠りをこらえる様子が面白くて仕方がない。
「身体を預けてもらってもかまいませんが?」
麗は、それでも耐える。
「どうでもいい講義なら寝ます、しかし源氏ですし、高橋先生ですし」
葵はクスクス。
「メモの字も、珍しくお乱れに」
麗は、必死に目を開けて抗弁。
「もともと悪筆です」

そんな授業も、ようやく終わった。
麗は、葵と一緒に講師高橋麻央の前に出向く。
高橋麻央も麗の眠そうな顔を見ていた。
「麗君、相当眠かったの?」

麗は焦った。
「もともと、こんな顔で」
高橋麻央は、話題を変えた。
「授業の内容は?麗君に聞くのも緊張するけれど」

麗は、難しい顔。
「うーん・・・詰め込み過ぎのような、時間制限がきついのかな」
「生徒の立場で言うのも、おこがましいけれど」

高橋麻央の表情が変わった。
「うん、そうなの!もう、言い切れなくて」
「あれも言いたい、これも言いたいってなって」
「ねえ、一緒にお昼しようよ!」

驚く葵はそのまま、今度は高橋麻央が麗の袖をつかんでいる。
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